病院を経営していた父親は、心のよりどころだった母親が急逝すると、後を追うように亡くなりました。そこで、父の病院に医師として勤務する兄妹のもとに降りかかったのが、父親の「婚外子」の問題です。まったく面識はないものの、親族からいろいろな話を聞かされており、苦労した父の遺産を分け合う気持ちにはなれません。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

母と二人三脚で、外科医院を立ち上げた父

今回の相談者は、外科医として父親が経営していた病院に勤務する佐藤さんです。母親と父親が相次いで亡くなり相続が発生し、その対応に困っているとのことでした。

 

佐藤さんの父親は先祖代々医師の家系で、現在も本家では大きな総合病院を経営しています。ところが、その家の長男であり、総合病院の跡継ぎとされていた佐藤さんの父親は、医師になって早々、祖父と大喧嘩したことが原因で、勘当同然に家を追い出されてしまったとのことでした。

 

 

実家を追い出されたものの、その後結婚。妻とふたり苦労を重ねながら、病院を建設するための土地を購入して外科医院を開業し、すでに40年以上の年月が流れました。佐藤さんも父親と同じ大学を卒業後、父親と同じ外科医となり、父親の病院に勤務しています。佐藤さんと2歳違いの妹も、皮膚科医として父親の病院に勤務しています。

 

ところが、父親とともに外科医院を切り盛りしてきた母親が、60代半ばにして病に倒れ、急死してしまったのです。病院経営の切り盛りを母親に頼り切っていた父親は、精神的な支えを失ったせいか、あっという間に体調を崩し、母親が亡くなってから半年後、後を追うように亡くなりました。

相続問題に影を落とす「婚外子」の存在

じつは佐藤さんの父親は、母親と結婚する前に、ほかの女性との間に婚外子をもうけていました。その子は佐藤さんの半年前に生まれており、戸籍上は兄にあたります。佐藤さんの母親が出産のため産科に入院していたところ、その女性が子どもを抱いて病室に押し掛け、大騒ぎとなりました。その女性が妊娠していたことも出産していたこともまったく知らなかった佐藤さんの父親ですが、女性からの度重なる要求に押され、子どもを認知したのだそうです。

 

佐藤さんは成人後、叔父からこの話を聞かされましたが、両親は口をつぐんで一切を語りませんでした。むろん佐藤さんも、一度も会ったこともない兄であり、きょうだいという気持ちはありません。とはいえ、戸籍謄本で確認すると確かに認知されており、れっきとした相続人のひとりなのです。

 

●相続人関係図

被相続人:父親(病院経営、医師)、配偶者はすでに死亡
相続人 :長男、長女、非嫡出子(男性)

几帳面な父だから、遺言書があるかと思ったが…

叔父の話によると、非嫡出子の母親の行動は財産目当ての計画的なものだったようで、認知の際にも、その後の養育費についても、非常に揉めたとのことでした。とはいえ、今回の父親の相続では、その非嫡出子の兄もれっきとした相続人であり、法定割合では財産の3分の1の権利を有しています。そして、相続人の間で遺産分割の話し合いを持つ必要があります。

 

しかし、もし父親の遺言書があればその内容が優先されることになります。佐藤さんは几帳面だった父親が遺言書を残しているのではないかと、貸金庫や書類が入っていそうな場所を全部確認したのですが、残念ながら見つかりませんでした。

 

このような状況にあって、母親違いのそのきょうだいに、いまさら父親の死を報せる気になれないのはもちろん、自分から会う気持ちにもなれません。

次ページ両親が築いた財産は、1円たりとも分けたくない

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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