新聞は「情報の宝庫」…多忙な医師は、どう読むか?
臨床論文を書くには、どうすればいいか。前回は、私の医学誌や科学誌の読み方をご紹介した(関連記事『医師の情報収集…臨床論文書くには「論文100報読め」の世界』参照)。
今回は一般メディアの読み方について、ご紹介しよう。私が、一般メディアでもっとも重視するのは新聞だ。全国紙5紙(朝日、読売、毎日、産経、日経)と東京新聞、福島民友、神戸新聞を購読している。
各紙を読む理由は次の通りだ。東京新聞は、私が東京在住で東京の情報が欲しいから、福島民友は東日本大震災以降、福島で活動を続けているからで、神戸新聞は私が兵庫県出身だからだ。自分と関係する地域の情報を集めるには、地方紙を購読するのがいい。全国紙とは情報量が違う。
最近は新聞の読み方が変わってきた。電子版が普及したらからだ。前述の8紙のうち、福島民友以外は電子版があり、私は電子版で読んでいる。ネット記事と違い、何面にどの程度の分量で掲載されているか、紙面での扱いを見れば、新聞社の評価が一目でわかる。
さらに、スクショで保存も容易だ。注目すべき記事はインターンを含め、医療ガバナンス研究所の関係者に「フェイスブックメッセンジャー」のグループでシェアしている。これが連載の文章を書くときなどの「スクラップ帳」として役に立つ。
新聞は情報の宝庫だ。徹底的に利用するのがいい。この点で『新聞ダイジェスト』(新聞ダイジェスト社)はおすすめだ。主要6紙が前の月に掲載した記事を項目ごとに整理して掲載している。過去の論文を体系立って読むことで、現在に繋がる流れを把握することができる。一冊990円と安く、お買い得だ。
臨床研究の実力を磨くには、海外メディアの活用が必須
ただ、臨床研究の実力をつけたければ、国内の新聞を読むだけでは駄目だ。一流の医学誌・科学誌の多くは、欧米で編集されており、欧米の社会情勢に影響される。日本の新聞は、海外情報の発信が弱い。このような情報を知りたければ、海外メディアに目を通すべきだ。
幸い、『ウォール・ストリート・ジャーナル』『CNN』『ロイター』『ブルームバーグ』など多くの海外メディアが日本語版を出している。英語の壁はない。さらに多くが無料で読める。このような媒体を利用しない手はない。具体例を挙げて、ご説明しよう。
9月8日、『AFP』が『新型コロナ対策、「安全な対人距離」は状況次第研究』という興味深い記事を掲載した。
『AFP』はフランスに拠点を置く通信社だ。米『AP通信』、英『ロイター』と並び世界三大通信と言われている。
余談だが、『AFP』は、私は毎朝、iPadのアプリ『AFPBB News』でチェックすることにしている。『AFPBB News』の特徴の一つは、中国関連の記事が多いことだ。11月10日0時の時点で掲載されていた29報の記事のうち、12報が中国関連だった。米国関連は6報、フランス関連は2報で、日本関連はない。世界のメディアが、いかに中国に関心を寄せているかおわかりいただけるだろう。
前出の9月8日に掲載された記事は、英セント・トーマス病院の医師たちが、英『BMJ』誌(英医師会誌)で発表した論文を紹介したものだ。
彼らは、屋内外、滞在時間、十分な換気の有無、会話のレベル(沈黙・話す・叫ぶ)、およびマスクの有無で、ソーシャル・ディスタンスの効果が、どの程度、影響されるか推定した。
この研究によれば、換気が不十分な屋内では、マスクを着用しても、長時間話すことは危険だが、屋外で少人数で話す場合、よほど大声を出さない限り、マスクなしでも安全だ。
これは読者にとって貴重な情報だ。屋外を歩行する日本人の多くは無言だ。マスクを着用する必要はない。ところが、私の知る限り、この論文を紹介した全国紙はない。
私は『BMJ』は目を通していない。ところが、『AFP』などの海外メディアをフォローすることで、『BMJ』に掲載された重要な臨床研究をフォローすることができる。海外の社会情勢だけでなく、自分がフォローしていない医学誌・科学誌の重要論文について知ることができるのも大きなメリットだ。
もちろん、英語に自信があれば、日本語版のないメディアもフォローするといい。私は『ワシントンポスト』や『ニューヨークタイムズ』、さらに『ハアレツ』(イスラエル)などのニュース記事も、メーリングリストに登録し、見出しを毎日チェックするようにしている。
杉原 杏璃 氏登壇!
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
(入場無料)今すぐ申し込む>>