医療に対するクレームが多い老人ホームのある事情
ミスマッチを解説⑤「医療機関の医師の能力が低い」とは
食事と同じくらい、老人ホームでは医療に対するクレームも多くあります。
私が働いていたホームでも、入居者や家族から「医師の能力が低い」というクレームから始まり、「言葉遣いがなっていない」というレベルから、「医療費の自己負担分の計算が違っているのでは?」といった経済的な話まで本当にたくさんありました。昔ほどではなくなったとは思いますが、今でも相変わらず多いと思っています。
はじめに、老人ホームに入居した場合の医師との関わり方について話をしていきます。老人ホームに入居をした場合の多くは、ホーム指定の医療機関の医師が主治医に就任するケースが多いと思います。どうしても今までのかかりつけ医を主治医にしたいということであれば、それはそれで可能ですが、便宜上、現実的ではない場合が多いと思います。
夜間に急変した場合など、介護職員は主治医に連絡をとり、指示を仰ぐのが普通です。ホームの主治医であれば、夜間に連絡が来ることも仕事のうちなので準備をしていますが、そうではないクリニックの医師が主治医になっている場合など、夜間に連絡がとれるかどうかすら保証の限りではありません。
ホームの主治医に容態急変を伝えたところで、普段から診察をしていない入居者に対する指示など出るはずもなく、結局、介護職員は家族に連絡をした上で救急車を呼んで病院に行く、と言うことになってしまいます。家族も病院に行くことになりますが、深夜など、家族の住まいと老人ホームとが離れている場合には、家族にとっても厄介な話になります。
このあたりの説明をすると、「それでは入居と同時に主治医をホームの協力医療機関の医師に変えましょう」という話になります。
医療に対するクレームの多くは医療とは関係のない話
入居者やその家族から「医師の質が低い」という指摘は数多く受けますが、本当に質が低いかどうかは、容易に判別することはできません。私の経験上、入居者の家族に医師がいるようなケースも多々ありましたが、その医師から「お宅のF先生は医師として問題ありだ」と指摘されたことはありませんでした。
ただし、実情を考えた場合、過度な期待は禁物です。たとえば、ホームの協力医療機関であるAクリニックの担当往診医はB先生ですが、B先生の本業はC病院の医長であった場合、ホーム入居者もC病院の患者さんもB先生にとっては同じ患者さんになります。しかし、どうしてもB先生の思いとしては、C病院の患者さんを優先してしまうことは、人の情としてあるのではないかと思います。つまり、本業のC病院とアルバイトのAクリニックとの違いです。