新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

マーケットに予兆が現れるのは20年秋以降

本連載で繰り返し述べてきたように、人々の働き方の形態そのものが今回のコロナ禍を契機に大きく変わる可能性があるというのが、ポスト・コロナにおける重要な視点なのです。そうした意味では「結局、元に戻る」という意見は、コロナ禍は一過性の感染症にすぎず、働き方そのものには大きな変化は生まれないという前提に立っているということになります。

 

牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)

しかし、そう言っている多くの人たちは、実は古くから存在する大企業の役員たちに多いようです。組織は大きくなるほど保守的になると言われますが、ポスト・コロナでたいした変化は生じず、「元の世界に戻る」と信じたい気持ちも頷けますが、実態はどうでしょうか。

 

オフィスビルマーケットは、これまで実体経済の好不調に約半年遅れて影響を受けると言われてきました。この伝から行くと、オフィスビルマーケットに予兆が現われてくるのは20年秋以降くらいからになるのではないでしょうか。

 

実際に空室率がどのくらい上がり、平均賃料がどの程度下がるのか、私は予想屋ではないのでわかりませんが、日本総研の予測では企業従業員の1割がテレワークになった場合、東京都心5区の空室率は15%近くに急上昇し、平均賃料も約2割下落するとしています。これはやや極端な予想にも見えますが、少なくとも分水嶺の4%は意外に早い時期に突破してもおかしくないと思ったほうがよさそうです。

 

気をつけたいのは、やはり人々のマインドがコロナ前とコロナ後では大きくチェンジしたことにあります。これまでのいわば常識であった働き方が実は違うのだ。違ってもよいのだ。通勤なんてしなくても仕事はできたんだ。という気づきをオフィスで働くほぼ全員が「共有化」できたところにあるのです。

 

ポスト・コロナ時代において、オフィスはその役割をずいぶん変質させていくのではないでしょうか。これまでは全員がひとところに集まって仕事するという組織体が存在し、その存在を内外にアピールするためにオフィスは必要でした。ところが実際にはオフィス床というものが、必ずしも働く場として必要なものではないとわかった瞬間、オフィスの存在意義を問い直されたのがこのコロナ禍でした。

 

社員から見れば、会社という「ムラ」の存在を強烈にアピールしてきたのがオフィスでしたが、そのオフィスに通うことが仕事の価値ではないことに気づいたポスト・コロナにおいては、オフィスはただ単に時折、社内外の人と会って互いの存在を確認しあうだけの場になっていくことになりそうです。

 

存在の確認すら、実際には必要なく、これからは一部のヘッドクォーターのみを残して、組織は限りなくバーチャル化していくものと思われます。このようになると、現在都心部で大量に供給されているオフィス床は、ひょっとすると無用の長物と化していくことも想像されます。

 

もちろん、だからといってすべてのオフィスがその存在意義を失うものとも思えません。あらかじめ各社員の役割が明確に決まっているような事業であれば、オフィスという存在なくしても、事業は十分回っていきます。しかしいくらネット上でつながっているからといって、全員がオンライン上だけで事業を遂行していけるとも思えません。そうした意味で、一部の職種ではオフィス床が必要であることに異論はありません。

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