介護職員も感じている「関わりの薄さ」
朝昼晩の食事の時間、入浴やレクリエーション、受診などの場合は、何らかの形で職員が関わっていきます。しかし、これ以外は原則、職員が関わることはありません。要介護状態により排泄介助が必要な場合などは、当然職員は関わっていきますが、当然、その作業に対しては数分間の関わりしかできません。
つまり、老人ホームに入居したからといって、毎日毎日、豪華客船のようにイベントが盛りだくさんで、職員とも親密に濃厚な関係性を築くことができるとは思わないでほしいということです。もちろん中には、本人の個性も手伝い、積極的に自分から職員側との距離を縮め、職員と和気あいあいとやっているように見える入居者もいますが、それはごく少数派だと思います。
また、誤解のないように言っておきますが、この「関わりの薄さ」は、何も入居者側だけが持っている違和感ではありません。介護職員側も感じている違和感なのです。さらに言うと、このことが介護職員の離職の原因の一つにもなっているのです。
多くの介護職員は本音として、もっと丁寧に一人ひとりの入居者と関わりたいと思っています。しかし、介護保険制度はそれをけして許してはくれません。繰り返しになりますが、老人ホームの場合、国が決めた配置基準以上に介護職員を配置した場合、その経費は利用料金に上乗せする以外に方法はなく、それができなければ赤字経営になってしまうからです。
当然、運営企業側は、競合他社の料金を横目に見ながらの料金設定ということになるので、積極的な料金の上乗せは「可」とはしていません。また入居者側にとっても、手の届く料金形態でなければ入居すら検討しないでしょう。
つまり、老人ホームも国が決めたスキームなので、一部の高級老人ホーム以外は、入居者が生きるために必要な最低限の介護支援しかできないのが現実だということです。もちろん、中には限られた資源で精一杯のことをしようと努力し、工夫をしているホームもありますが、最近の傾向では、良かれと思って取り組んだ積極的なサービスであっても万一バツが付くと入居者や家族、さらには社会から責められるので、馬鹿馬鹿しいので言われたことだけを淡々とやっていればよい、と考える老人ホームも多くなってきました。残念な話だと思います。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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