自宅を処分しない入居者は「帰る場所」を確保
そしてその回答はすぐにわかりました。結論から先に言います。Aさんは、心の片隅で老人ホームでの生活に100%の信頼を置いていなかったのです。万一、ここでの生活に支障が出た場合、戻るところがあれば気は楽です。そのために、自宅不動産を処分することに躊躇していたというのです。
実は、この話はAさんの娘さんから聞きました。娘さんたちも、管理が大変だからという理由でAさんに自宅不動産を処分するように勧めたそうです。もちろん、処分して生まれたお金は、Aさんが自分のために自由に使えばよいと娘さんたちは言ったそうです。
自慢ではありませんが、当時の私たちは、入居者一人ひとりに寄り添って尽くしてきた自負がありました。しかし、Aさんはホームのこと、つまり、私たちのことを100%信頼できず、万一のことを常に考えていたという現実を娘さんから突きつけられたのです。正直ショックでした。満足しているものと思っていましたが、すべて自分たちの勝手な自分都合の思い込みだったのですから。
今も老人ホーム入居者の自宅不動産の多くは処分されないでいます。なぜ、処分しないのか? ホームに対し全幅の信頼がないからにほかなりません。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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