高齢者になるとは獲得してきたものを捨てること
捨てるばかりが老人ホーム入居ではない
老人ホーム入居を決めると、さまざまなものを捨てることになります。捨てなかったとしても、ホームに持ってこられるものには限度があります。20平米程度の居室なので、物理的に入るものには限界があるからです。老人ホームへの入居は、大げさな言い方をすれば、今まで生きてきたその人の財産をすべて捨てることになるのではないでしょうか?
高齢者は失う経験の体験者です。これは介護業界の常識です。
高齢者になると、失うことばかりです。今まで何事もなく聞こえていた声が聞こえなくなり、見えていたものが見えなくなり、歩けたはずの距離が歩けなくなります。さらに友人や知人を失っていきます。中には、長生きのしすぎで子供まで失うケースもあります。さらに、認知症などの高齢期特有の病気により家族の顔や自身が今まで生きてきたことの記憶まで失っていくのです。
人の一生とは、実に皮肉なものではないでしょうか。生まれてから今日に至るまで、ひたすら何かを得ようと努力を重ねます。ある人は財産や地位や名誉を獲得し、ある人は良き家族や友人を獲得します。
しかし、一定の年齢になった時点で、この獲得してきたものを始末しなければならないのです。財産なら喜んで子供が引き継いでくれるでしょうが、それ以外のものは捨てなければなりません。
老人ホームへの入居を考えるということは、実は捨てるものを考えるという意味でも重要なことです。老人ホームで多くの入居者やその家族を見てきた私の実感です。
多くの方は、要介護状態になってから老人ホームへの入居を考え始めますが、私はその行動には反対です。仕事をリタイアして5年が経過したら、自身の健康状態に関係なく、老人ホームへの入居を検討し始めるべきです。そして、そのタイミングで、自分の所有しているもののうち、何を老人ホームへ持参して何を捨てるのかを考えるべきでしょう。