徘徊は決まった「時間、入居者、コース」で始まる
リアルに疑似体験─老人ホームの24時間
入居者や家族は、老人ホームの日常をぜひ理解してほしい。これから書くことが実態であり、これが真実です。ここでは、介護付き有料老人ホームの一日を、時間軸で説明していきたいと思います。提供されるサービスの手厚さと利用料金は、比例しています。料金によっては、ここで記載されていることをしてもらえないホーム、逆に、さらに手厚くしてもらえるホームがあるということに、留意してください。
夜勤帯のもう一つの顔
老人ホームの夜勤帯の、もう一つの顔。それは認知症入居者による徘徊です。
多くの場合、徘徊は、決まった時間に決まった入居者、決まったコースで始まります。職員同士で時計を見ながら、「そろそろAさんが動き出す頃だ」とか「今日は、Bさんの徘徊開始が遅いね。いつもは、徘徊が始まる頃なんだけど」という感じです。つまり、徘徊も老人ホームの日常の一コマなのです。
徘徊で、職員が一番困ることは、他の入居者に迷惑が及ぶことです。徘徊の途中に他の入居者の居室に侵入してしまうとか、徘徊を始める前に大声で騒ぐとかです。なぜなら、深夜、静まり返っているホーム内では、居室のドアの開け閉めの音も異様に大きく聞こえるからです。「隣りの入居者が夜間に居室を出たり入ったりして、ドアの開け閉めがうるさくて眠れない」とか「ドアの鍵を掛けておかないと、徘徊者が勝手に入ってきて怖い」とか「ドアに鍵を掛けて寝ているが、徘徊者が鍵の掛かっているドアを開けようとしてガチャガチャとうるさい」などなど、徘徊に対する苦情は後を絶ちません。さらに、徘徊者が歩いている途中に転倒するとか、テーブルの上に置いてある植木を食べてしまったとか、とにかく、目を離せません。
そして、その苦情の矛先は、当事者ではなくホームに向けられるのが普通です。ホームの入居者に対する管理体制が甘いとか、仕事の仕方が悪いとか、とにかく苦情はホームに来るのです。ホームとしても、徘徊者の家族に対し、苦情の実態は伝えるのですが、それを聞いたところで家族としては、どうすることもできません。むしろ家族としては、このような徘徊があったから、自宅ではなく老人ホームでの生活を選択したのだから、ホームで何とかしてください、と言ってきます。まさに、四面楚歌です。