「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

「患者さんを迎えるのがお前の仕事だろう!」

朝は僕も忙しい。始業時間は医師も看護師やその他の医療職と同じ8時30分なのだが、外科では毎日8時から30分程度のカンファレンスがある。

 

外科医は手術が始まると手術が終わるまで病棟患者さんを診に行くことはできない。手術は夕方から夜中まで行われることがほとんどであるため、日中に病棟看護師に必要な検査や処置などの指示を出すためには、9時の入室までに受け持ちの患者さんをひと通り診察し検査結果を見て状態を評価しておかなければいけない。

 

そのため、僕は7時前には病院に出勤して回診を始め、カンファレンスまでに、ある程度診察とカルテ記載を終え、カンファレンス後に残りの患者さんを回診してカルテを書き上げる。

 

担当患者さん全員が経過良好で何の問題もなければ9時の入室に間に合うのだが、状態の変化や創(傷)の感染など有事の時の対処に手間取ることもある。僕はまだ自分で対応できないことも多く、その場合は主治医を捕まえて相談するなり対応をお願いするなりしなければならない。そうこうしているとあっという間に9時を過ぎる。

 

そのため、9時の入室に遅れることもしばしばだが、病棟担当の看護師、手術室担当の看護師、麻酔科医など、スタッフ全員が必死で間に合わせた9時入室である。もっとも重要な手術を担う立場の外科医が遅れることは許されない。

 

遅れて入ると白い目で見られ、ベテラン看護師が担当する手術ならば厳しく注意されることもある。そのことが後から入って来た上級医に知られれば、「先に手術室に入って患者さんを迎えるのがお前の仕事だろう」とまた叱られる、辛い立場だ。

 

8時59分。

 

(今日はギリギリ間に合った)

 

胸をなでおろしながら、手術着に着替え終えた僕は更衣室を出て手術室に向かう。手術がどこの部屋で行われるのか確認していると電話が鳴った。

 

「先生、患者さんが入室しています。早く来てください」

 

看護師さんが責めるような口調で言う。

 

「はい、すぐに行きます。何番の部屋ですか?」

「10番です」

 

そう言うと、電話はブチっと切られた。(まだ、1分あるはずなのに)そう思いながら急いで手術室に駆け込む。

 

「遅くなってすみません」

「では、麻酔前タイムアウトを行います」

「よろしくお願いします」

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孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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