「職員が足りない」と訴える老人ホームの実態
深刻な介護職員不足
最近の老人ホーム業界の現状を眺めていると、「職員が足りない」と訴えるホームが目立ちます。ほとんどのホーム運営事業者が、職員不足であると言っています。
そして、その職員不足を解消するために、あるホームでは外国人技能実習生の獲得に精を出し、またあるホームでは、AIやIoTの活用により業務の合理化、効率化を目指しています。このことだけを見ると、それはまるで、自動車の組み立て工場の話のようにも思えます。老人ホームをはじめとする介護事業者にとって、そのくらい、介護職員不足は深刻な問題になっているのです。
しかし、私は、職員不足については、近い未来、解消していくと考えています。ただし、解消したからといって、介護保険事業が順風満帆だということではありません。解消したとしても介護保険業界の進むべき道については、大きな危惧を持っているのです。
介護職員が辞める理由は、割に合わないから
現在、老人ホーム業界はM&A真っ盛りです。多くの売りたい老人ホームがあり、それと同じくらい多くの買いたい老人ホームがあります。
売りたい老人ホームの経営者の心の中を想像すると、価値のあるうちにお金に換えて利益を確定させておきたい、ということです。今なら、まだ価値があるので売れる、しかし、1年後には価値はなくなるから売れなくなる。だから早く売ろう、ということです。
買いたい老人ホームの経営者の心の中は、とにかく規模を大きくしないと利益が出ないので、金のある限り買いまくり、規模を大きくしていくことを最優先したい、ということだと思います。
M&Aを通して、老人ホームの運営事業者数は今後減っていくことになります。さらに、運営ホーム数も今後は減っていくはずです。なぜなら、M&Aで膨張したホームの立場を考えた場合、買収した企業の保有しているすべてのホームが、必要なホームとはならないからです。
既存ホームに近いとか、収益が悪すぎるとか、さまざまな理由から不要になるホームが出現するので、ホームの数も減少していくことになります。ホームの数が減少すれば、今後は容易に入居することができないという現象が出てくるため、ホーム側にとっては、今までのような採算度外視の生存競争から解放されます。十分な利益を取って運営することが可能になり、介護職員にとっても割に合わない仕事ではなくなります。