子供とは一定の距離を置きたいというニーズも
たしかに、老人ホームに入居者する高齢者の中には、このような側面を持っている人も存在します。しかし、彼らの多くは、自分の意思で老人ホームに入居を決めています。子供から見捨てられたのではなく、子供には子供の人生があり、自分には自分の人生があるといった、自立した高齢者がほとんどです。
以前、私が老人ホームへの入居相談を通して、子供がいない高齢者の相談を受けた時の話です。老人ホームに入居するには「身元引受人」の選任が欠かせません。呼び方は会社ごとに異なりますが、要は、老人ホームの家賃などの月額利用料などの支払いに関する連帯保証と入院や手術時などの同意、さらには亡くなった時の遺体の引き取りを義務づけられる人の選任を言います。
多くの入居者は、子供を選任し、子供も無条件で引き受けるケースが多いのですが、子供のいない高齢者の場合、引き受け手がいないのが現実でした。兄弟は、同じように高齢化しており、保証能力はありません。友人も同じです。多くの財産を持っている高齢者であれば、甥とか姪という立場の人、つまり相続人がその役割を果たしますが、そうでなければ、なかなか承諾を取るのは難しいのが現実です。稀に、組織の長として長年尽力してきた高齢者の場合、その組織がすべてを引き受けてくれるケースもありますが、これは異例中の異例です。
というような現実から、子供のいない高齢者の場合、身元引受人を選定することは容易ではありません。そこで、専門家に依頼し身元保証に関する商品を作ってもらい、引き受けを実現させたことがあります。その時、想定外のことが起こりました。それは、子供のいない一人高齢者を対象に開発した商品にもかかわらず、ニーズのかなりの部分を子供がいる高齢者が占めたのです。要は、「子供はいるが、子供の支配下に入るのは嫌だ。だから、老人ホームに入居した後も、子供とは一定の距離を置いていたい」というニーズなのでした。
もっと言うと、自分の財産を自分がどう使おうと子供にとやかく言われるのは嫌だ、という高齢者が想定外に多かったのです。つまり、子供の世話にはなりたくない、子供から生活に関する支配を受けたくない、自由に暮らしたい、という高齢者は、皆さんが考えている以上に存在しているということではないでしょうか。家族仲良く3世帯同居の大家族。このような生活スタイルが高齢者の幸福であるというのとは違う価値観も多くあるのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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