絶えず動いて落ち着きがない、話すときに視線が合わない…。一見すると、発達障害があるのか、それとも性格や気質の問題なのかわからない子どもが、全国の幼稚園や保育園で増加しています。本連載では、「障害」そのものの定義や、発達障害を持つ人の特徴行動などを紹介します。※本記事は盛岡大学短期大学部幼児教育科教授である嶋野重行氏の著書『もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

WHOが示した「障害の定義」

障害の定義については、1980年に世界保健機関(WHO)が国際障害分類試案(ICIDHモデル)を示し、障害を「インペアメント」、「ディスアビリティ」、「ハンディキャップ」の3つの概念でとらえました(図表1参照)。

 

筆者作成
[図表1]WHO の障害の分類(ICIDHモデル) 筆者作成

 

図表2を説明しますと、人は疾病または事故などで変調をきたすと第1レベルのインペアメントの障害が生じます。まず、事故によって手を失うのが第1レベル。次に第2レベルとしてディスアビリティの文字が書けないという能力障害が生じます。さらに第3レベルとしてハンディキャップの入試や入社試験を受けることができないという、社会で不利益が生じてきます。この時代の障害の定義は、ICIDHモデルといいます。国際分類のIC(International Classification)に、ImpairmentのI、DisabilityのD、HandicapのHの頭文字を連ねたものです。

 

これにより、全世界的な障害の定義がなされました。翌年の1981年は国際障害者年であり、全世界的に障害者の啓発活動が展開されました。その後、ICIDHモデルはさらに改訂を重ね、2001年にはICFモデル(International Classificationof Functioning,DisabilityandHealth)と呼ばれる障害構造モデルとなりました(図表2参照)。

 

出典:上田敏『ICF の理解と活用』
[図表2]国際障害分類改訂版・ICF モデル 出典:上田敏『ICF の理解と活用』

 

ICFモデルでは、インペアメントの部分が「心身機能・構造」、ディスアビリティが「活動」、ハンディキャップが「参加」に変わりました。さらに、「背景因子」として「個人的因子」と「環境的因子」という要因が加わりました。

 

それまで、障害は個人的要因でみてきました。ところが、それだけでなく環境的因子も 影響していると考えるようになり、一人ひとりが主観的に感じている「生きにくさ」を障 害としてとらえるようになってきました。そうなれば、環境のあり方によって障害がなく なってしまうという考え方ができるのです。

 

これは障害をとらえるうえで、社会的要因である環境条件を一層重視しなければならないことを物語っています。障害の定義に環境的要因も組み込むことによって、特に社会的不利を発生させている環境上のメカニズムを解明し、社会的不利・参加制約をなくす方策を社会全体で考えることができます。さらに、「参画」ということもいわれ、障害者関係団体から障害者自身も国の政策に計画段階から参加できるように求めたのです。

 

 

※本記事は連載『「気になる子ども」との向き合い方』を再構成したものです。

 

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もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

嶋野 重行

幻冬舎メディアコンサルティング

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