絶えず動いて落ち着きがない、話すときに視線が合わない…。一見すると、発達障害があるのか、それとも本人の性格や気質の問題なのかわからない子どもが増加しています。今回は、ASD(自閉症スペクトラム障害)の子どもに見られる特徴や、未だ世の保護者を苦しめる「愛着障害」という誤解が生まれた背景について解説します。※本記事は盛岡大学短期大学部幼児教育科教授である嶋野重行氏の著書『もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の歴史

自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)は医学上の診断名です。一般には「自閉症」といわれてきました。この障害は19世紀後半の頃、イギリスの精神科医モーズリーが、自閉症の示す奇怪で奇妙な行動は子どもにもおこりうる小児精神病として指摘しました。

 

1930年代にホプキンス大学教授で児童相談専門家であり、行動主義心理学創始者のJ・ワトソンは、母親たちに、わが子を若い成人として扱い、キスしたり、撫(な)でたりせず、傷口にさえ包帯をしないよう強く求めました。さもないと子どもを弱くし、アメリカの競争的な社会で成功できなくさせてしまうと言ったのです。当時は子育てに関して、このような社会風潮があったと思われます。

 

さらに、1943年にアメリカの精神科医のL・カナーが、精神発達の様相がきわめて特異で、他の発達障害や疾患、症候群にはみられない一定の特徴をもっている子どもたちがいることを見出して、それを「早期小児自閉症」として発表しました。

カナーが子どもたちから発見した「5つの行動特徴」

その後、多くの臨床家や研究者が、この疾病概念を吟味し再検討してきました。カナーはまず11名の子どもたちから次の5点の行動特徴を浮き彫りにしました。

 

①周囲からの極端な孤立
(「ひとりで十分満足」「殻にとじこもる」「ひとりでいるのが一番好き」)

②ことばの発達の特有な歪み
(「反響言語がある」「単調な繰り返し」)

③強迫的な同一性保持の傾向(「同一性を保持する」)

④ある物事への極端な興味・関心と巧みさ
(「子守唄、動物のリスト」「卓越した記憶力」)

⑤潜在的な知能(「知恵があっても外に出さぬ印象を与える」
「高度な知的な家庭の出身」)

 

※L・カナー『幼児自閉症の研究』黎明書房、1978年より

 

当時のアメリカではフロイト精神分析学の影響もあり、カナーはこのような症状は母親の冷たい養育(「冷蔵庫マザー」)の愛情不足によるものと考えました。

アスペルガーが見出した「6つの行動特徴」

同じ頃の1944年に、オーストリアの精神科医師であるH・アスペルガーは、これとは別の行動パターンを示す4名の青年に関する症例から論文を発表しました。第二次世界大戦のナチス・ドイツの時代背景もあり、殺戮(さつりく)から逃れさせるために「障害」とはせずにあえて「精神病質」としたとされます。アスペルガーが症例から見出した行動特徴は次の6点でした。

 

①他人への愚直で不適切な対応をする

②鉄道の時刻表などへの限定した興味のもち方をする

③一本調子の話し方、やりとりにならない会話になる

④運動協応動作の拙劣さがある

⑤運動的には境界線以上であるのに特定の一・二分野の学習困難さをもつ

⑥常識の著しい欠如がある

 

アスペルガーは、自身の指摘する症候群はカナーのいう自閉症とは異なるものと考えました。しかし、多くの類似性があることも認めていて、その原因については、よくわからない状態でした。

 

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もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

もしかして発達障害?「気になる子ども」との向き合い方

嶋野 重行

幻冬舎メディアコンサルティング

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