どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

高齢父は隔離フロアで軟禁生活?

■エピソード13
理由があって兄夫婦の面会を禁止する妹夫婦

 

かなり昔の話です。Zさんは80歳の男性。介護業界では「自立」と呼ばれる高齢者です。ちなみに「自立」とは、おおむね生活のすべてを自分だけでやれる人のことを言います。つまり、社会の中で普通に生活ができる高齢者のことです。

 

そんな彼は、老人ホームの中でも特に注意が必要な重度の認知症高齢者を受け入れる隔離フロアに入居していました。隔離フロアとは、ホーム内の一部のフロアを他のフロアと遮断し、入居者が自由に出入りをできないようにしたフロアのことです。今では採用している老人ホームは少なくなりましたが、私が介護職員だった頃は、多くの老人ホームに、趣向を凝らした自慢の隔離フロアが存在していたものです。

 

高齢の父親は長女強い要望で隔離フロアでの生活が始まった。(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢の父親は長女強い要望で隔離フロアでの生活が始まった。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

なぜ、自立のZさんが隔離フロアに入居しているかというと、長女夫婦の強い希望があったからです。長女夫婦から相談を受けたホームの生活相談員がその話に同情したのです。

 

その話の内容とは、以下のようなものでした。高齢の父に対し、ある飲食店の女性経営者が色気仕掛けで近づき、上手いことを言って父の財産をむしり取ろうとしている。父は都内で親の残した複数のビルを所有し、数億円の現金と数十億円の不動産を持っています。父は、もともとコミュニケーション能力に劣っているところがあり、騙されやすい性格。放っておくと一文無しになってしまうので何とか助けてほしい。自分が引き取って面倒を見られればいいのだが、嫁に行った身分で、旦那の親の面倒を見なければならない─というものでした。

 

この話を聞き、長女に同情したホームの生活相談員がホームをシェルターとして利用することを勧めたのです。飲食店の経営者が手を替え品を替え、ホームにも押しかけて父に実印などを押させたらどうしよう、という心配に対し、隔離フロアの話をし、そこなら安全ということで入居が決まったといいます。

 

それからZさんの認知症隔離フロアでの生活が始まりました。長女の言う通り、他の自立の高齢者と比べると、少し奇妙な行動をとることがあり、完全な自立の高齢者ではありませんでした。身体機能にはまったく問題はありませんでしたが、人より知能が少し劣っている、そんなふうに見える高齢者でした。当初、生活相談員から詳しい話を聞いている介護職員は、Zさんと長女に同情的で、飲食店の経営者はなんてひどい悪人なんだと思っていました。

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誰も書かなかった老人ホーム

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小嶋 勝利

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老人ホーム リアルな暮らし

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