元エリート官僚の老後は幸せだったか
■エピソード12
元エリート官僚と貧しい板金屋と、どちらの人生が幸せなのか
Jさんは元官僚。何でも昔の内務省に入ったということで、近所でも有名なエリートだったそうです。
90歳を過ぎた頃から認知症を発症しました。次第に奇行が目立始め、とうとう警察のお世話になることも。近所の人たちからも後ろ指を指されることも多くなり、奥さまの判断で老人ホームに入居してきました。
奥さまは87歳。一言聞けばそれとわかる東北地方独特の話し方をする穏やかな女性です。毎週1回決まって水曜日に着物を着てご主人に会いに来ます。ご主人の今後のホーム内でのケアの方針を決める会議で、奥さまから現状を聞く機会がありました。
独特の東北弁で奥さまは今までの人生を振り返ります。二人の出会いは、ご主人が青森県に赴任してきたことによります。奥さまは料亭の給仕係をしていたそうです。ご主人は一目で奥さまのことを気に入り、結婚したと言います。子供は二人、男の子です。長男は東京藝術大学の大学院を卒業後ドイツに渡り、有名なオーケストラの楽団員として活躍、今ではドイツでも有名な音楽大学で後進の指導をしているそうです。次男は東京大学を卒業後、アメリカに本社を構える世界的にも有名な金融会社に就職、今ではアジア地区の責任者になり、香港に住んでいるそうです。
つまり、子供たちは絵に描いたようなエリートです。奥さまの話によると、二人は幼少の頃から勉強がとにかく良くできて、近所でも有名だったと言います。長男の同級生にO君という板金屋さんの子供がいました。彼は子供の頃からいわゆる「札付きの悪」。近所の鼻つまみ者です。多くの親が自分の子供に「あの子と付き合ってはダメ」と言われるありさまです。
奥さまが買い物などで近所の人に会うと、必ず「お子さんは優秀でいいですね」とか「どうすれば、こんなに優秀な坊ちゃんになれるのですか」と聞かれ、正直、満更でもなく、自慢の子供たちだったそうです。そして、決まって皆は「それに比べるとO君はダメね。昨日警察に補導されたそうですよ。オートバイを盗んで無免許で乗り回していたんですって」などと誹謗中傷を言われるありさまです。