どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

同じ居室だとお母さんがいじめられる

■エピソード11
夫婦で入居している元キャリア官僚

 

Kさんは、元キャリア官僚の男性です。認知症ではありませんが、都合が悪くなると認知症のふりをして誤魔化そうとします。とにかく、わがままで、自分勝手、何でも自分が一番でないと大騒ぎをするホームの問題児です。

 

実は、奥さまも入居していますが、こちらは、真逆で、おしとやかなお嬢様タイプの女性です。しかも、奥さまのほうが、見た目とは裏腹に、重度の認知症です。Kさんの強い希望で、奥さまと二人でホームに入居していますが、ご子息から、同じ居室で生活をさせると、お母さんが酷く虐められるので、居室だけではなく居住階も別々にしてほしいという要望を受け、Kさんは4階の居室へ、奥様は2階の居室へと別々に入居しています。

 

同じ居室だと奥さんがいじめられるから夫婦は隔離された。(※写真はイメージです/PIXTA)
同じ居室だと奥さんがいじめられるから夫婦は隔離された。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

ご子息の話によると、若い頃から、Kさんは厳格な仕事の鬼だったと言います。特に、自己中心的な性格で、口うるさく、自分の気に入らない事には断固反対、家庭内でもこの方針は変わらず、学生の頃は、自宅に彼がいるというだけで憂鬱になったことを覚えていると言います。お母さんはというと、そこまでしなくてもというぐらい、夫に対して献身的で、徹底的に身の周りの世話を焼いていたようです。それはそれは、傍から見ていても、そこまで気を使う必要があるのかというほどだったと言います。

 

仕事が上手くいかない時などに深酒をすると、決まって奥さんに八つ当たりをし、手を出すことも度々あったそうです。見るに見かねて窘めようとすると、お母さんから、「お父さんに逆らってはダメです。お父さんは、日本国のために重要な仕事をしているんですよ」と、逆に諭されたと言います。

 

話は続きます。ホームとご子息との協議の中で、せめて食事の時ぐらいは一緒に、という取り決めを行ない、食事の時間になるとKさんが2階の奥さまの利用している食堂まで来て一緒のテーブルで食べることになっています。

 

しかし、周囲の配慮もむなしく、奥さまはまったくつれない対応しかしません。食事の時間になると、4階からエレベーターを使い、車椅子に乗ったKさんが食堂に来ます。大きな声で奥さまの名前を呼びます。しかし、奥さまはまったく関知せず、いっさい無視です。一所懸命、何度も何度も大声で奥さまの名前を叫んでいるご主人を確認すると「ねえねえ、あそこで騒いでいる人を見てみて。頭がきっと狂っているのね」と隣りに座っている入居者に話し掛けます。隣りの入居者は、騒いでいる人が、当のご主人であることを知っているので、回答に窮するありさまです。

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