女房とは完全隔離された元キャリア官僚
職員に導かれて奥さまの前の席に座り食事をするのですが、その食べ方が、汚いこと汚いこと、すべてのおかずをKさん特製のおかゆが入っているどんぶりの中に放り込み、スプーンで一気に口に流し込みます。口の周りは当然のこと、洋服やテーブルにも食べ残しが飛び散るので隣りに座っている人は閉口します。目の前に座っている奥さまは、その光景を見て「あなた、ちょっと、もう少し綺麗に食べることはできないの? 周りの人が不愉快になりますよ」と叱責しますが、嬉しそうに「今日も素敵ですね」と笑顔で答えます。しかし、奥さまは本気で嫌悪感を示し、「私には主人がいるんです。2年前に亡くなりましたが……。失礼なことを言うと承知しませんよ」と取り付くシマもありません。
食事のチャレンジをして1週間もたたないうちに、周囲で食事をしている入居者から、同じテーブルで食事をしたくない、という抗議を受け、やむなく、奥さまと同じテーブルで食事をすることは断念しました。しかし、その後も、同じ食堂で食事を共にするのですが、彼の呼びかけに、奥さまはいっさい反応することはなく、無視を続けています。
重度な認知症の奥さまは、当然わざとやっているわけではありません。本当にご主人のことを認知することができないのです。ご主人は、認知症のふりをしているだけなので、当然、奥さまの病状は理解できています。しかし、奥さまが認知症だということを認めてはいず、諦めようとはしませんでした。毎月1回、ホームを訪れるご子息の評価によると、お母さんは、若い頃に、懸命にKさんを支えてきたが、それは、すべて自分たち子どものことを考えての行動だったといいます。そのお陰で、今は子供たちも安定した生活を送ることができているのです。
しかし、その限界を超えた気苦労が原因で認知症を発症し、今では介護職員からの支援を受けなければ生活もままならない状態です。父はというと、身体こそ年相応の衰えが来ているものの、頭ははっきりしているので老人ホームで気ままな生活をしています。母親が父を死んだと思っていることは、認知症が原因だとは思いますが、どこかで、昔の仇を取るために死んだことにし、父の呪縛から逃げたいのではないかと思う時もあるようです。
1カ月後、ご子息から、Kさんとお母さんを完全に引き離してほしいという要望をもらいました。ホーム内で顔を合わすことはもうないでしょう。4階の職員にKさんの様子を確認すると、4階でも入居者に嫌われ、今では、完全に一人で食事を摂っていると言います。元キャリア官僚のKさん。間違いなく、一時期の日本の行政を担になってきた人物ですが、晩年は寂しいものになってしまいました。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】