19時から居室で居酒屋がオープン
■エピソード5
居室が居酒屋!? 元クラブ経営者の話
Gさんは75歳の女性。元銀座のクラブ経営者です。もともと、お父さまが有名なてんぷら屋さんを営んでいました。子供の頃から、飲食店が身近にあったこともあり、Gさんも女学校を卒業すると、飲食店の道に入ったようです。複数の飲食店を経営した後、銀座でクラブを始めたそうです。
彼女が老人ホームに入居を決めた理由は、子供がいないことと持病のパーキンソン病が悪化したことによります。また、数年前に罹った脳梗塞の影響で、左半身に軽い麻痺が残っていることも遠因の一つです。今はまだ、自分のことは自分でできますが、そのうちパーキンソン病により、人からの介護支援がどうしても必要になる時が来ます。その時に、慌てないように、今のうちから老人ホームに入居しようということでした。
そんなGさんですから、他の入居者と比べると、元気そのものです。日常生活で介護職員の手助けを借りることはまずありません。むしろ、介護職員が忙しい時など、持ち前のお節介な性格から、要介護入居者の見守りを手伝ってくれるほどです。
職員を困らせていることが一つだけありました。毎晩自室で催される酒盛りです。老人ホームでは、自室での飲酒を禁止しているところがほとんどですが、厳密には、入居者の身体状況を鑑み、消極的に了解しているケースがあります。さらに、入居者が無断で飲酒していることに対し、黙認するケースもあります。
いつものように、19時過ぎから彼女の居室で酒盛りが始まります。参加者は日によってまちまちですが、彼女と特に親しい自立の入居者数名が参加します。全員、社会的にそれなりの地位にあった人物やその奥さまたちなので、若者のように羽目を外し泥酔するようなことは一切ありません。参加者で持ち寄った酒の肴を彼女のお酌で飲みながら、世間話や昔話に花が咲きます。そして、20時過ぎには、全員自室へと戻っていきます。この件については、何度も介護職員は本人やその家族と協議を重ね、次のような取り決めをした上で、容認していました。
(1)飲酒も入居者の権利であることを理解する。
(2)居室内での酒盛りは21時までに終了する。
(3)主治医から飲酒を控える指示があった場合は、それに従う。
(4)他の入居者に迷惑をかけない。
(5)飲酒は居室内で行ない、廊下やホールでは飲まない。
(6)食べ物の自己管理ができなくなった場合、職員管理とすることに同意する。
という具合でした。