新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

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私も社会人の駆け出しは銀行員でしたが、7000万円の住宅ローンなんて、当時では考えられませんでした。なぜなら、働いているのは旦那(年収700万円)だけだったからです。年間250万円の返済は旦那さんだけでは年収に対する返済額の比率である返済比率は35.7%にもなり、銀行も融資にはNOだったことでしょう。

 

それが、奥様(年収750万円)がどんと乗っかるわけですから、銀行審査はらくらくパスするというわけです。

高齢者の相続税対策に不動産融資をする銀行

銀行がもう一つ目をつけたのが、アパートやマンションなどの賃貸用不動産に対する融資です。今の高齢者にはけっこうリッチな人がたくさんいます。日銀の発表によると、個人の金融資産残高は2017年9月末現在で1845兆円にも達していますが、その半分近くは60歳以上の世代が保有しています。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

件の銀行支店長の話によれば、最近では銀行口座に1億円程度の預金を持っている高齢者はざらにいるとのことです。

 

当然ですが、高齢者にとっての関心事の一つが相続です。なるべく税金を節約して子供や孫に残したいというのは誰しもが抱く感情です。

 

現金は1億円であれば額面がそのまま評価額になり、税金が課されます。ところが、同じ1億円でもこれを不動産に替えておけば、相続税はぐっと圧縮されます。なぜなら不動産は相続の際には、土地は路線価評価額、建物は固定資産税評価額で評価され、一般的にこれらの評価額は時価よりもかなり割安に評価されるからです。

 

特にタワマンは高層階にいくほど時価と評価額の乖離が大きくなるので、相続対策を考える高齢富裕層には大人気となり、タワマン高層階を買うのは「中国人と年寄り」などと揶揄されました。1億円の現金がなくとも銀行はここに多額の融資を行なうことで、相続対策の手助けをしました。借入金は相続財産から控除できるからです。また、土地を寝かせておくと、更地の評価は高くなるので、土地上にアパートなどの賃貸用不動産を建設し、相続評価額を圧縮する手法でアパートローンなどをバンバン出しました。

 

銀行員はあまり不動産には詳しくない人が多いのですが、地元の工務店やアパート会社、税理士などがチームとなって、高齢の地主に対してセールスしまくりました。銀行にとっては紹介したアパート会社や工務店から得られるキックバック手数料なども低金利時代では貴重な収益源になっているので、多少のリスクには目をつぶって、

 

「おじいちゃん、大丈夫ですよ。これでお子さんやお孫さんも安心ですね」

 

などとたいした根拠もないセリフを吐くのです。

 

銀行にとっては運用先難で苦しむお金は出ていくわ、キックバック手数料は手にできるわ、こんなに「おいしい」商売はないのです。

 

こうした日銀の金融政策は、銀行を「不動産へと走らせる」大きな誘因となっているのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

 

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