新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

平成バブル崩壊とは異なる産業と個人に波及

平成バブル時、過剰流動性で市場に溢れ出たマネーは、国内企業への融資という形で企業に向かいました。企業は自らの本業に対する設備投資だけでなく、銀行から無理くりに貸し付けられたお金で不動産や株式、債券へと投資を行ないました。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

また、それまで円高不況で抑えていた採用を一気に増やし、就職採用にあたっては目星を付けた学生を囲い込むなどして、当時採用された新入社員たちは「平成バブル社員」などと呼ばれました。企業は社員の給与を引き上げ、交際接待費をバンバン使うことで節税を行ないました。

 

世の中の景気が良くなるわけです。企業は自らの稼ぎ以上にカネを持ち、投資を行ない、社員にばらまき、六本木や銀座でカネを落とし続けたのです。

 

一方今はどうでしょうか。企業は稼ぎの多くが海外。しかも稼いだカネで借入金を返済して無借金企業であることが持て囃される。そして余ったカネはひたすら内部留保して蓄える。社員は非正規雇用を増やし、正社員の給料は低く抑える。新卒学生は残業が多いブラック企業を敬遠し、福利厚生が良くて定時に帰ることができる企業を選択する。早く帰ることが「良い企業」の証なので、もちろん残業はご法度、夜の街に繰り出して夜中まで騒ぐなんてとんでもない。社員は定時に帰るので時間はあるが、残業代は発生しないので実質の手取り額は少ない。したがって派手に遊ぶことはせずに、家に帰ってゲームをする。

 

少なくとも平成バブルのような宴は考えられないのです。

 

さて、平成バブルの崩壊は、宴が派手だっただけに崩壊もど派手でした。金利の上昇と不動産価格の急落は、「金利負担」という返済条件の悪化と「担保価値」の暴落という資金回収の困難化を招き、多くの企業が窮地に追い込まれました。銀行は大量の不良債権を抱え、身動きが取れなくなりました。

 

今回のバブルも金利の上昇が株式や不動産を直撃し、株価や不動産価格が下落に転じる可能性があるという点においては、平成バブル崩壊のときと原因は同じかもしれません。

 

しかし、企業の多くは借入金を圧縮しているので、平成バブル時のように企業の倒産が相次ぐという事態にはなりそうもありません。一部のデベロッパーや不動産事業に傾注しすぎた企業の経営は厳しくなるでしょうが、社会的にそれほど深刻な事態になるとは想定しにくいものがあります。

 

私はむしろ、今回の崩壊がもし起こるとすれば、最初にその直撃を食らうのが銀行なのではないかと見ています。すでにマイナス金利政策で銀行は窮地に陥っています。運用難が続く中で金利が上昇することは預金者への利息支払いの急増を意味します。また、不動産融資に傾注したツケはバブル時と同じように銀行に大量の不良債権を発生させます。まさに「前門の虎、後門の狼」のような状況が今の銀行を取り巻く環境なのです。

 

さて崩壊するのは銀行だけでしょうか。平成バブル時とはまた異なった産業や個人が「バブル崩壊」という雪崩に巻き込まれるのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

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