新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

私権の強さに一定の制約を課すチャンス

というのも日本における不動産の所有権は世界的に見ても非常に強い権利であり、この「私権」の強さがこれからの日本社会における不動産の役割を考えていく上で、それこそ「支障」になってくると思うからです。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

多くの国では土地の所有権は賃借権などに限定されており、日本のような「完全な所有権」を認めている国は少ないのです。また欧米ではコミュニティーの考え方が浸透していて、不動産の所有権を認める一方で、「公共性」の概念も強く求められています。つまり不動産所有者といえども、コミュニティーに参加する意識がないものは排除される傾向にあるということです。

 

所有者不明土地問題研究会では法務省の協力を得て、全国10カ所の地区の約10万筆の土地の所有権の登記の状況を調査しましたが、なんと中小都市や中山間地域では不動産登記をしてから50年以上も経過して更新がなされていない登記が26.6%にも及んだといいます。

 

このようなまったく社会に対する情報提供を行なっていない「ひとりよがり」な不動産の存在をなくしていくためには、所有権に対して一定の制限をかけることも検討すべきと考えます。もちろん、法律では国民の財産権を守ることも必要にはなってきますので、所有権を取り上げるのではなく、たとえば、一定の探索手続きを行なった上で、真の所有者すべてを発見できなくとも、土地上に「利用権」あるいは「使用権」のような権利を設定できるようにするなど、私権に対する何らかの制約をかけていくという考えです。

 

現に農地においては、耕作放棄している農地などは、一定の条件下で農地中間管理機構が農地として借り上げ、集積・集約した上で希望者に貸し付けるような制度があります。

 

今回、ふたたび不動産バブルが崩壊するならば、不動産に対する国民の価値観はまた大いに揺らぐことになるでしょう。しかし、一方で不動産に対する私権の強さに一定の制約を課すチャンスといえるかもしれません。

 

不動産は個人のものであると同時に社会のためのものでもあることは、土地上には道路があり、公共施設があり、社会インフラが整備されていることからも明らかです。役に立たなくなった土地であるならばぜひ社会のために拠出する、そのための出口を国や自治体が用意してあげることも必要になってくるでしょう。

 

不動産所有権をもっと柔軟に――これがバブル崩壊後に期待できる不動産価値革命の一つなのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

不動産で知る日本のこれから

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業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊

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