新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

都心オフィス賃料坪1万円時代の幕開け

都心の賃貸オフィス市場が、超高層ビルをはじめとする巨大ビルの供給圧力にさらされ、なおかつテナント需要の伸びがあまり期待できないことから大きく崩れるであろうことは、すでに述べてきたとおりです。

 

では、オフィスビル市場はどのくらいの痛手を被ることになるのでしょうか。私は、少し乱暴ですが、東京のオフィス賃料は、不動産バブル崩壊後は現在よりも2割程度下がるのではないかと見ています。2割といえば、これまで月坪あたり4万円以上をとっていた丸の内や大手町の賃料が3万円台前半に、2万円をとっていた中堅のオフィスビルが1万6000円程度に、そして現在1万5千円の小型ビルが万2000円程度に落ち込むということです。

 

新型コロナ感染拡大で各企業でリモートワークが進んでいる。(※写真はイメージです/PIXTA)
新型コロナ感染拡大で各企業でリモートワークが進んでいる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

この値は東京都心部での想定値ですから、同じ東京都内でもちょっと条件の悪い(築年、立地や形状など)物件であれば、坪あたり1万円のオフィスビルが出てきてもおかしくないと思っています。特に中小ビルは「テナントドミノ倒し」の影響をもろにかぶることが予想され、空室を埋めるためには大胆な賃料引き下げに走るところが出てきても不思議ではありません。


 
今のオフィスビルは、とりわけ東日本大震災以降は、建物のいわばスペック競争ともいわれるような争いが展開されてきました。

 

地震に対する安全性はもちろん、企業活動が持続可能であるようなさまざまなバックアップ電源の装備や備蓄食料、安全装備がこれでもかと並びます。省エネ装備も完璧です。照明や空調の制御、水回りの節水、建物全体のCO2のコントロールなどまるでビルに入居していると、世界の環境対策に貢献しているかのような錯覚に陥ることができるほどです。

 

また執務スペースにあたるテナントの専有部分の天井高は、高くなる一方です。最近のビルでは天井高が3mにも及ぶものが出てきました。共用施設であるロビーは豪華さを競い合い、飲食設備のみならずホテルや住宅、美術館、ホール、映画館などを併設し、あたかも一つの街を形成しているような物件まで出現しています。

 

オフィスの電気容量も飛躍的に増大し、データセンターでも即入居できるようなビルが増えています。

 

このように、オフィスビルにおける執務環境の改善には著しいものがあります。

 

しかし、やや醒めた見方をするならば、こうした機能競争はテナントにとって良い部分もあれば、正直どうでもよい部分もあるというのが、本当のところではないでしょうか。

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不動産で知る日本のこれから

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