「バリアフリーすぎる家」がオススメできない理由
・間取りの変更がいらない家
例えば家族に介護が必要になったとき、今の家の玄関や洗面所では、車椅子が入らなかったり、廊下の幅を広げたりと、大掛かりな改築が発生することがあります。今は若いから平気という方も、いつ何が起こるかわかりません。
例えばトイレひとつにしても、ドアを開けると正面に便器があるようなタイプでは身体の向きを180度回転させなければ用を足せないため、後に介護が必要となった際使用者の負担が大きくなります。横向きに便器が設置されていれば、方向転換をせず、身体をずらすだけで便器に腰掛けることができ、介護する方の負担も軽減されます。
いつか必要になるものなら、最初からバリアフリーに対応できるような間取りにしておけば、将来的に余計な出費を抑えられます。
かといって、なんでもかんでもバリアフリーにと、まったく段差のない平らな家を造ればいいというわけではないと思います。
生前、私の祖母が、家の中を歩くのにもやたらとつまずくようになってしまい、ある日微妙な段差で転んで腕の骨を折ってしまいました。80歳を過ぎると全身の体重を支える筋力もなくなってしまうので、倒れたときにとっさに手を出してしまえば、腕の骨は簡単に折れてしまいます。
このくらいの歳になると、段差はなく、階段も使わず1階で全て用事を済ませられた方がいいのでしょうが、50、60代の元気のあるうちはなるべく階段も上るようにしていた方が、高齢になってからも足腰が弱らなくていいのではないかと思います。
また、小さなお子さんの場合、生まれたときから段差のない家に住んでいると、外に出たときに、ちょっとした段差でつまずくようになってしまいます。畳の部屋の敷居が3cmくらい上がっていれば、日常の中で無意識のうちに足を上げる動作をすることになりますし、家の中に階段があれば毎日上り下りをしてその分の体力もつきます。
むしろ問題にすべきは、家の中の段差よりも温度差です。急激な温度変化により、血圧や脈拍が大きく変化することをヒートショックといい、心臓に大きな負担がかかります。お風呂場で亡くなる人の数は、交通事故の死亡者よりも、約3倍も多いそうです。家の中の段差を考えることも必要ですが、家の中の温度差をなくすことが一番のバリアフリーだと思います。
・リビングに家族が集まる家
家族みんなが自然と集まるリビングのある家は理想的です。何が条件かは、その家によって変わってくるので一概には言えませんが、陽当たりがよく明るかったり、吹き抜けがあって開放感があったりと、快適で居心地がよいリビングには自然と人が集まります。
また、これは間取りの問題になってくるのですが、リビングを通らないと自分の部屋に行けないようにするなど、生活動線を考えたプランにするのがいいでしょう。特に子ども部屋に子どもがこもりきりにならないようにすることが大切です。
これは私自身の話ですが、10代の頃は家に帰ると親がいるスペースには立ち寄らず、すぐに自分の部屋に入ってしまうこともありました。食事の時間だけは出てきて、食べ終わったらまたすぐ部屋に戻ってしまう。自分の部屋に電話やテレビの線を引き込んだりと好き勝手にしていました。これは自分が親の立場になって改めて考えてみると寂しい話です。
あるお客様は、子ども部屋は3畳もあれば十分で、広い部屋を与える必要はないとおっしゃいました。必要以上に快適な部屋は子どもがこもる原因になるからだそうです。この話を聞いた時、なるほどと思わず私も共感しました。普段からなるべくリビングを通るような間取りにすることで、家族の間のコミュニケーションも増えるでしょう。