「社長という人種」にはどういった性格の人が多いのかを踏まえたうえで、社長に求められる「器量」について考えてみます。 *本記事は、関根威氏の著作『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件』(幻冬舎MC)から抜粋、再編集したものです

非常識な社長が「我慢する器」を持てば鬼に金棒だが…

社長という人種は、生まれつきか環境がそうさせたかは定かではありませんが、非常識な方が多いように思います。

 

「オレが、オレが」という我が強く傲慢な方、自分の話ばかりして人の話をまったく聞かない方、周りに人が大勢いるのに、全然気にせず大声でしゃべる方、ゴルフで自分が打ち終わるとさっさと先に行ってしまうせっかちな方。だいたい私がセカンドショットを打とうとすると、もうグリーン上にいたりします(私のほうが、ドライバーが飛ぶため・・・)。そして、ゴルフで負けると本能むき出しで悔しがります。

 

一般のサラリーマンからすると、あの人はまったく常識がない、一緒にいるとこっちが恥ずかしくなる、という人種です。社長の悪口になりましたが、社長というのはこのぐらい基本的に非常識でなければ務まらないと思います。

 

社長というのは、基本、非常識でないと務まらないが…?
社長というのは、基本、非常識でないと務まらないが…?
(画像はイメージです/PIXTA)

 

人並み外れた情熱や傲慢さ、狂気、周囲を気にせずに自分の信念を貫くさま、できないと思われることを何としてもやる、というある種の非常識さがなければ、儲けることなど到底できないと思うのです。

 

ただこれだけでは、年商で7〜8億までというのが私の感覚です。この先は、自分は一般の人とは違う「常識」を持っているということをわかっておかないと、「人」がついてこなくなるからです。

 

私の顧問先にもいます。誰よりも大声でしゃべり、事業に対する思いはハンパではなく、非常識を絵に描いたような社長ですが、ある時幹部社員に聞いてみると、「あの人にはついていけませんよ」と。

 

人並み外れた情熱と狂気、異常なまでの信念を持ちながらも、「ああ、自分は世間の人とはちょっと違う常識を持っているんだ」というあたりを認識して、常識的な行動をとれないと、誰もついてくる人がいなくなります。

 

非常識な社長が、我慢する器を持ち合わせたら、鬼に金棒といったところでしょう。

社長の器量が最も端的に現れるのはやはり「非常時」

私の尊敬する社長にY社長がいます。この社長は、いつも社員やその家族を守り、社会に本当に貢献する会社にしたい、と熱く語っており、うちの社員がそんな話を聞いた後は、話に引き込まれて必ず感動して帰ってきます。そうかと思うと、ものすごい剣幕で社員を怒って、時に辞めさせたりもする。

 

別の社長は、営業会議で「君たちの肩にかかっている、必ず目標達成できる!」と営業社員にハッパをかけておいて、会議が終わった後、社長に、「本気で達成できると思っていますか?」と聞いてみると、「もうあの事業はダメだね、それでも今期3000万ぐらいは利益出ると思うから・・・」と。一の矢を外しても、ちゃんとオプションが考えられている。

 

人一倍、人情家でありながらも、ある場面では合理的で情に流されない。人一倍、情熱家でありながらも、激情家ではない。

 

京セラ創業者、JALを再建した稲盛和夫さんは、昔自分の二重人格について相当悩んだそうです。会社に利益を出し続けることの厳しさと、社長が持っている人間愛のようなものが、その場面場面で顔を出しているのだと思います。

 

逆に、社員の前でいいこと、吉報しか言えない社長もいます。社員に厳しかった創業者のトラウマなのか、特に二代目の社長に多いように思います。長く会社をやっていれば、いいことばかりではありません。時には、給料ダウンなんかを告げなければならないことだってあります。こういう非常時に、社長の器量がもっとも端的に現れる。

 

社員に給料をたくさん払えば利益が減る、利益が減れば会社の存続ができない、そんな相矛盾することを成し遂げようとするのが経営だとすれば、右を向いては右といい、左を向いては左という、そのぐらいの多重人格を受け入れる器量を、社長は身につけなければならないと思います。

経営では様々な「矛盾」に直面するが・・・

お客さまの満足と社員の満足――お客さまの満足を満たすには、社員が手間ひまかけて、努力して、いいサービスを提供しなければならない。それでは、社員はいつまで経っても満足できないのか? お客さまの満足と社員の満足、どっちが先なのか?

 

利益追求と社会貢献――会社は社会の公器だから、社会に何らかの貢献をしなければならない。でも、利益が出なければ潰れてしまうし、給料だって払えない。道徳なき経済は罪悪、経済なき道徳は寝言・・・。

 

短期戦略と長期戦略――短期的な利益と長期的な利益、どちらを優先すべきか? 短期の利益ばかり追っている部署は、いつも危なっかしい。でも、長期的な視野で営業している部署は、なかなか足下の利益がついてこない。

 

制度と風土、規律と放任――部下に仕事を任せるというけど、どこまで任せたらいいのか? 仕事のプロセスをすべてマニュアル管理しようとしたが、社員の心までは管理できない。制度と風土、規律と放任、どちらが正しい経営手法なのか。

 

給料とやりがい――社員は、やりがいのある仕事ができれば満足するのか? それともやっぱり給料か?

 

優しさと厳しさ――社員にあまり厳しいことばっかり言っていると辞めちゃうから、我慢して優しく接していたら、最近つけ上がってきた。

 

もともと、右か左かはっきりしなければ気が済まない性格の私は、これら二項対立する矛盾に決着をつけたかったのですが、結局すべてにおいて勝負がつきませんでした。

矛盾する事項の間でバランスをとり続けるのが社長

どちらが本当は大事なのか、割り切れたほうが楽に決まっています。しかし、こちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが立たず、という相矛盾する事項を同時にやろうとしているのが経営です。

 

そうなると、社長というのは、常に振り子を振り続けること。対極にある考え方の間で、バランスをとり続けていくこと。

 

自分とは対岸にある考え方、向こう岸にある考え方を否定せずに、自分の考え方とのバランスをとっていく、そういう相矛盾を把持する姿勢が、結局のところその社長の器をつくるのではないかと思うのです。

 

 

関根 威

SMC税理士法人 代表社員理事長

 

本記事は、2014年2月27日刊行の書籍『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

低成長時代に業績を伸ばす 社長の条件

関根 威

幻冬舎メディアコンサルティング

バブル崩壊以降、日本経済は長期的な低迷を続けています。いまや日本企業の75%が法人税を払っていないのが現状です。このような低成長時代には、経営者は何を心がければいいのでしょうか――。 本書では、外部コンサルタント…

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