同じホームでもあるフロア専門の介護職員となる
高級な老人ホームは、自立(介護支援がそれほど必要ではない、単なる高齢者のことを指します)の高齢者の割合が多くなります。そこで介護職員に求められるスキルは、相手の痒い所に手が届く、気が利く相談者、援助者です。秘書や執事のような立ち居振る舞いを求められます。
さらに、厳しい入居者の場合は「見ていて暑苦しいから、もう少し頭髪を短くしなければだめよ」とか「洋服の着こなしがだらしないわね」とか「あなたはこんなことも知らないの?」などなど「躾」や「マナー」「教養」に至るまで、うるさく小言を言われます。
ちなみに、これらは介護職員側の立場で考えた場合の言い方です。入居者側の立場で考えた場合、今まで日常の中で当然に身につけ、周囲から求められているマナーや教養なので、できない職員が目の前にいること自体に理解ができない、ということになるのです。住んでいた世界が違う、ということでしょう。
逆に重介護のホームで介護職員に求められるスキルは身体介助ばかりなので、肉体労働が多く、躾やマナー、教養についてうるさく小言を言う入居者や家族は、それほど多くはいません。さらに、万一そういう人がいたとしても、日ごろの介助業務に対し感謝をしている関係から、多くは不問に付して許してくれるので、職員の気持ちはかなり楽です。
私がかつて働いていた老人ホームの場合は、「フロア分け」という介護方針を取っていました。たとえば、3階建ての老人ホームの場合、1階フロアは自立の高齢者、2階フロアは認知症の高齢者、3階フロアは身体が不自由な高齢者、といった具合です。
当然、自立の高齢者には気を遣います。身体が不自由な高齢者には体力を使います。認知症の高齢者には心を遣います。
つまり、使うスキルが別々なので、同じホーム内であっても介護職員は原則としてフロア専門の介護職員になりがちです。
私が経験した老人ホームでも、次のようなことがよく発生していました。夜勤時は、ホーム全体を夜勤者が協力して包括的に見なければならないために、フロアが違うために口も利いたことが無い入居者からのナースコールに対応しなければならないケースがよくあります。当然、まともにナースコールに対応することはできないので、そのつどトラブルが発生します。
入居者側からすると、同じホームの職員です。そして入居者の多くは、多少なりとも認知症状がある高齢者です。頭がしっかりしている入居者であれば、職員の顔や名前を憶えているので、その日の夜勤のメンバーは誰なのかを把握し、場合によっては「この人に言ってもしかたがない」と判断もしてくれます。しかし、多くの入居者は、同じ職員であり、全員同じ対応をしてくれると思い込んでいます。だからトラブルが発生するのです。