職員にとって堪えるのは入浴拒否の入居者
入浴介助という仕事は、入居者の状態によっては、たしかに少しきつい仕事だと思います。誤解のないように申し上げておきますが、場合によっては抱きかかえて湯船につける入浴介助を私は「肉体的にきつい」仕事だと感じたことは一度もありません。その理由は、介助行為自体には機械や道具を使うケースが多く、自分の身体的なダメージはそれほどではないからです。
それよりも、職員にとって堪えることは、入浴拒否の入居者への対応と、介護職員を奴隷のように扱う利用者の存在だと思っています。何週間も入浴拒否を続ける入居者は意外に多く、清潔保持の観点から、看護師からは入浴をさせるようにという指示を受けます。しかし、介護職員が「入浴しましょう」と言おうものなら、頭ごなしに怒鳴られ追い返されてしまいます。挙句の果てには「虐待だ」と言われ、自分たちのしたことが「本当に正しい行為」なのかと悩んでしまう介護職員も多くいます。中には暴力を振るう入居者も存在し、介護職員の本音では「入りたくなければ入らなければよいのでは」という気持ちになってしまうことも、しばしばです。
さらに、介護職員を精神的に追い込む入居者が存在します。それは、介護職員を奴隷かまたは風俗嬢のような扱いをする入居者です。お湯の温度が熱いとか温いとか、体のこすり方が強いとか弱いとかと言って、かなり細かく無理な注文を付けてきます。さらに、わざと股間を洗うことを強要してきたり、洗い方の強要が明らかに清潔保持の限界を通り越している入居者も存在します。ちなみに、私の経験だけで申し上げると、入浴時の性的な話に意外にも女性入居者から男性介護職員に対するリクエストのほうが多いと私は感じています。
さらに、注文を付けるぐらいならかわいいものですが、中には自分が気に食わないと手を上げて殴りつけたり、蹴とばしたりと、暴力をふるう入居者も存在します。もちろん、それらの多くは認知症などをはじめとする高齢者独特の病気がさせている行為だと、介護職員も理解しています。しかし、いくら理解していても、毎日毎日このような仕打ちを受け続けていると、さすがに参ってしまう職員も出現します。Aさんの入浴は担当したくないとか、嫌悪感が激しくなると、Aさんの顔も見たくない、というようになっていきます。私の経験の中でも、このような入浴対応が嫌で、入浴当番日には必ずと言っていいほど体調不良で仕事を休み、その結果、他の職員とわだかまりができて、結局は老人ホームを退職していった介護職員が何人もいました。
数年来、老人ホーム内で起きている虐待や事件には、このような背景が見え隠れしています。長年の鬱積した不満が爆発して起きている可能性も否定できないと思われます。
介護流派という視点で考えた場合、食事介助の方法には賛否があります。食べ物をスプーンで口元や口の中まで運ぶという行為は、相手の尊厳を考えた場合、本当に必要な支援なのかどうかは、意見の分かれるところです。(「流派」によっては、無理に口をこじ開け、栄養摂取という観点だけで口の中に放り込む手法は虐待ではないかという考え方を持っています)。しかし、この項ではこういった本質的なことではなく、食事介助を通して感じることについて、論じていきたいと思っています。