新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

首都圏郊外の中古売り出し価格は250万円

住民の減少、高齢化と空き家化の進行は、タウン内の商業施設が撤退する要因となります。今全国の地方都市で話題となっている街の「孤立」化は、遠くない将来、首都圏のニュータウンでも着実に生じてくる問題になってきているのです。問題は商業施設のみならず、学校の統廃合、医院の閉鎖などが、これらの郊外住宅地で確実に起こってくることを意味しています。

 

牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)
牧野知弘著『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)

鳩山ニュータウン内の瀟洒な家を眺めていると、なぜここで育った子供たちや孫たちが「故郷」に戻ってこないのだろうと訝りますが、戻りようがないのです。この街に現代の共働き世帯が暮らせる条件は何一つ揃ってはいないのです。

 

こうした現象は、当然ですが不動産価格にも如実に反映されます。鳩山ニュータウン内の中古戸建て住宅は、場所や物件によりますが、現在では売り出し価格は600万円台にまで落ち込んでいます。

 

郊外住宅の価値下落は何も鳩山ニュータウンに限った話ではありません。千葉県や神奈川県でも、都心までの通勤が1時間を超えるようなエリアでは不動産価格は大幅な下落を示しています。

 

平成バブル時にこれらのエリアで住宅を購入した層は、購入時の価格のおおむね1割から2割程度の価格にまで落ち込んでいる、というのが実態です。

 

また郊外住宅といえば戸建て住宅ばかりが想像されがちですが、今や首都圏の代表的ベッドタウンである千葉県の松戸市や船橋市で、私鉄の支線や駅からバスでアクセスするようなマンションになると、築30年程度のものであっても中古の売り出し価格が250万円程度と「くるま一台分」くらいの値段になっているような事例も珍しくなくなっています。

 

そしてこの現象はどうやら2020年以降の四半世紀で、さらに明確な「流れ」になっていくことが予想されます。

 

団塊の世代の多くが郊外に住宅を買い求めたのは、地価が高騰した1970年代から90年代はじめにかけてでした。都心の土地は高すぎて手が出ない中、人々は都心から放射状に延びる鉄道沿線に住宅を探し求め、郊外の環境の良い戸建て住宅を選択し、1時間から1時間半の通勤に耐え、定年退職まで住宅ローンの負担にも耐えて「家」という財産を手にしてきました。

 

ところが、多くの住民がリタイアして、残された現在の状況は、子供は帰らず、老朽化した住宅と、老いた住民だけが取り残されるという取り合わせになっています。将来予測を見る限り不動産価値が上昇する可能性は小さいといわざるをえません。

 

今回の不動産バブルは郊外住宅にはまったくなんの影響も与えていませんし、今後も値上がりなど望むべくもない状況なのです。

 

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役

不動産で知る日本のこれから

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