いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

一般の人と介護職員の排泄介助への考えは違う

私は、食事介助は介護職員の資質を見極める際に、一番わかりやすい業務だと考えています。人の介助が無ければ、食事をとることも水を飲むこともできない要介護入居者。その入居者に対し、その人の手となって食事を口に運ぶという行為は、大げさな言い方をすれば、介護職員は、その人の生き死にについての〝すべてを握っている〟と言っても過言ではありません。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

私の経験では、食事介助を経験すると、介助をした相手に対し、“特別に親身になってあげたい”“〝愛おしく思えてくる”という気持ちが湧き上がってきます。あまり褒められたことではありませんが、食事介助をした入居者のことは、その日一日気にかかり、部屋への訪室回数が自然と増えていくのは、本当に不思議なことです。

 

食事介助とは、本来、相手側に対する介護支援業務なのですが、実際は食事介助を通じて、今の自分、今日の自分の、介護に対する「心構え」や「考え方」を修正することができます。自分に対する支援業務のような気がしてなりません。

 

介護職員は、食事介助というわかりやすい業務を通して、自分の存在価値を確認したり、人が生きていく上での重要な役割を担っているのだということを実感することができるのです。

 

寝ている身体を持ち上げてすることもある排泄介助とは、3K業務の代名詞でしょう。しかし、私の経験で申し上げると、排泄介助業務は、意外と早くに慣れてしまうものです。汚い話で恐縮ですが、便や尿の始末は、吐瀉物の始末と比べると、はるかに楽な仕事だと思います。

 

私の勝手な分析では、人は誰しも、生きている限り便や尿を目にすることは日常的なことであり、慣れているはずです。しかし、吐瀉は日常にはそれほどありません。排泄は通常の活動ですが、吐瀉はイレギュラーなものです。ここに、慣れるかどうかの違いがあるように思います。

 

さらに、寝たきりの入居者の排泄介助は、食事介助と同様、その人の役に「立っている感」を強く感じ、意外と楽しく取り組むことができます。

 

つまり、排泄介助という仕事は、傍から見ているイメージと、実際にやっている者が持っているイメージとは“だいぶ違う”ということを、理解してほしいのです。多くの介護職員に対し、どのような仕事があなたにとって“一番つらいものか”“大変なものなのか”と聞けば、おそらく、多くの介護職員は、排泄介助以外の業務を挙げるはずです。

 

私が、介護職員として駆け出しだった頃は、研修期間中「臭いがダメ」という理由で退職していった同期入社組の社員が見受けられましたが、一定の期間が経つと落ち着いていきました。つまり入社数日間で、本当に生理的にダメな人は「無理」という結論を出すので、それ以降は単なる「汚い」「臭い」といったことが気になるような職員はいなくなるということです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

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