いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

病院にずっと入院していれば安心なのか?

私が介護業界に入ったばかりの頃、ある入居者が病院とホームとを行ったり来たりし、入退院を繰り返していました。私は、その入居者の送り迎えをするたびに、何でずっと入院させておかないのか不思議だな、と考えていました。入院費はいくらでも支払う能力があるというのに、病院には長くは入院させてもらえないようでした。

 

状態が落ち着くと、後はホームで経過観察(様子を見ること)をしてくださいということで、退院させられるのです。私のほうで「本人はだいぶ苦しがっているようですが……本当に退院して大丈夫ですか?」と聞いても、「看護師は、バイタル(心拍数や血圧)も安定しているし、先生が退院して大丈夫だと言っているので退院になります」と言って、取り合ってもらえませんでした。その時の私は「なんで病院って、高齢者にやさしくないのだろう。何も無料で入院させてくれと頼んでいるわけではないのに」と、真剣に思ったものでした。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

しかし、介護業界で経験を積んでいくうちに、長く入院をさせてもらえないことの意味を理解することができました。現在の医療保険制度では、特定の疾患に対する入院日数の目安がおおむね決まっています。そして、その目安の期間を超えた場合、医療報酬が下がっていく傾向にあります。病院も経営をしなければ倒産をしてしまうので、所定の期間内に退院できるように最善の治療方法を検討して実施し、治療した上で退院をさせていかなければなりません。

 

勘違いをしてはならないことは、何も病院側がむりやり患者を追い出しているということではありません。疾患の種類により、適切な治療期間というものがあります。適切な治療を継続すれば疾患は必ず完治することが判明している、ということに着目する必要があるのです。

 

なお、ここで言う「完治」とは完全に治るということではなく、設備が整った病院ではなくとも対処ができる状態まで回復するということを指している、と理解してください。

 

病院には、毎日毎日適切な医療を必要とする多くの患者が訪れ、その中の一定数の患者は入院し治療をしなければならない患者です。それら治療を必要としている患者を一人でも多く受け入れるため、治療を継続する必然性が無くなった患者には退院してもらい、ベッドを空けた上で、その代わりに病院での治療が絶対に必要な患者を受け入れる、ということが病院の宿命です。

 

医師という資源には限りがあります。それを有効に活用する医療の場合、やはり、優先事項を考えたフォーメーションは至極当たり前のことだと言えます。

 

したがって、病院に入院しなければならない必然性が無くなれば、当然、病院に入院していることはできず、その結果、高齢者の場合は、自宅や老人ホームで軽微な医療処置を継続していくことになるのです。医療業界の優先順位により、重篤な人から優先して診なければならない以上、どうしても病院でなければ診れないという高齢者以外は、自宅か老人ホームで家族や介護職員らの手により経過観察をしていくことになるのです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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