賃貸住宅の空き住戸1000万戸時代が目前
野村総研の予測によれば、このままの状況が続いたと仮定した場合、空き家数は2033年には2146万8000戸に膨れ上がることが予想されています。仮にそのうちの半数が賃貸用とするならば、1000万戸以上の賃貸用住宅が空き住戸として出てくることになります。
すでに不動産情報サイトの「LIFULLHOME`S」の調べによれば、都心部の賃貸住宅の空き家率は、東京の千代田区で36.5%、中央区で27.7%にも及んでいます。その多くが老朽化した賃貸アパートなどが占めているものと思われますが、いずれにしても今後の賃貸住宅市場は完全な「借り手優位」になることだけは間違いなさそうです。
背に腹は代えられない賃貸アパートやマンションのオーナーは、すでに生活保護世帯や外国人にも触手を伸ばしてテナント確保に躍起となっています。高齢者だから「はい、お断わり」などと言える贅沢な環境ではなくなってきているというのが、世の中の実態です。
一方で、高齢者だからお断わりではなく、高齢者に対する安否確認や生活相談などのサービスを結び付けた賃貸住宅は、すでにサービス付き高齢者向け住宅として市民権を確立しつつあります。
このように時間軸を「現在」だけで比較を行なうのではなく、軸を少し将来、たとえば10年後20年後に移動させて社会環境がどのように変化していくかを考えるのは、住宅の取得などの判断ではきわめて有用なことです。今が「トク」だからと飛びつくものにろくなものはありません。誰しもが今、利益を得たいがためにいろいろな甘言を呈するのが世の常であるからです。
今後は高齢者が賃貸住宅を借りる際のチェックポイントやルールの整備が進むものと思われます。つまり、テナントを年齢だけで選別するのではなく、健康状態やそれに対応するサービスの付与、とりわけITなどを活用した「見守り」サービスなど、逆に高齢者やその家族が喜ぶような付加価値を付けた賃貸住宅が、その存在価値を高めていくのではないかと期待されます。
人々はそれぞれのライフスタイルに応じて住む場所、住む家を気軽に移っていく。こうした価値観の変化は不動産や不動産に関連する業界にとっても、けっして悪い話ではないはずです。多くの人が人生の節目ごとに移動をしていく社会では不動産が動き、街に、エリアに人が出入りし、人が出入りすることで消費が喚起され、活性化されるのです。
牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役