大量供給された賃貸アパートは借り手優位
以前は賃貸住宅といえば安普請というのが定番な見方でした。理由は2つ。
一つは、賃貸住宅はアパートなどに代表されるように、住宅を購入するまでの「とりあえず」の住宅であり、住んでも2年からせいぜい5年程度住めればよいため、住宅の設備仕様などは二の次という意識が、住宅を供給する側もこれを賃借する側にもありました。
理由の2つめは、アパートも賃貸マンションも地主さんの土地活用が中心で、デベロッパーなどの大手企業が参入しておらず、設備仕様もまちまち、管理の仕方もオーナーの考え方や性格によってばらばら、という実態があったからでした。
賃貸物件というのは、オーナーにとっては当然ですが「なるべく安く建てて、高く貸す、そして管理費用はケチる」ことによって収益が極大化します。借りる側も短期間しか住まないし、「住む」ことに拘る人たちは自分の住宅を買って出ていく。オーナー側も賃貸住戸はなるべく回転してくれたほうがよい。
つまり、2年程度でテナントが入れ替わってくれたほうが、そのつど原状回復費を(多めに)請求できるし、新たなテナントからは(しこたま)礼金をとれる。管理費用はなるべくかけずに、「至らぬサービス」をしてテナントが出て行っても、また新しいテナントがやってくるのでかまいやしない。
こんな思惑があるために、「顧客ファースト」のような発想は皆無だったのです。
こうした無手勝流アパート経営は人口が増加し、都会に大量の若者が継続的に流入し続けている間は成り立ちました。しかし、人口減少、とりわけ若年人口の急激な減少と賃貸アパートなどの供給過剰は、需給のミスマッチを招き、これまでの無手勝流では通用しない時代となりました。
また、テナントの居住環境に対する欲求は高まる一方です。なぜならオーナーが子供のころに育った住宅と比べて今の住宅は性能がどんどん上昇し、そうした環境に慣れてきた彼らから見て安普請の賃貸アパートは「住むに堪えない」代物になってしまったからです。しかも大量に供給された賃貸アパートは「借り手優位」。テナントによる選別が始まったのです。