「手厚い介護」とは配置人数を指すのか
老人ホームのサービス評価をする場合、一般的によく聞くキーワードは、「手厚い介護」かどうか、ということではないでしょうか。特に、高級老人ホームと言われているホームでは、この手厚さをアピールする傾向が強いと言えます。
そして、このサービスに対する「手厚さ」を測る物差しとして説明されているのが職員の「配置人数」、ということになるのです。当然、人員配置人数は多ければ多いほどサービスは手厚く、少なくなればなるほどサービス内容は手薄になります。
そこで、考えなくてはならないことは、提供される介護サービスが利用者にとって「押しつけ」なのか「野放し」なのか、どちらに属するのかということです。多くの場合、手厚い人員配置の中で供される介護サービスは、「押しつけ」が横行します。また、手薄な人員配置で行なわれる介護サービスは、「野放し」が横行する傾向が見受けられます。
押しつけ介護とは、本人にとっては不要な介護サービスを職員から押しつけられることを言います。そして、野放し介護とは逆に、やってほしい介護サービスを人がいないということで、すぐにはやってもらえないことを言います。
ここで注意しなければならないのは、介護サービスとは「声なき声に耳を傾けること」だということです。またこれは、言葉として声に発していなくても本人のニーズを察知して必要なサービスを提供できることを「よし」と考える介護「流派」の一つです。
つまり、「気が利かない者」「言われる前にサービスを提供できない者」は「優秀な介護職員ではない」ということになるのです。したがって、職員配置人数にゆとりがあるホームでは、ついついサービスが過剰になり、行きすぎたサービスになってしまうというケースが見受けられます。
少し話がそれますが、その昔、私のところに、あるホテルの経営企業から相談を持ち掛けられたことがあります。ホテル経営は過当競争気味で経営が難しくなっている。ついては、ホテルを老人ホームへと改修し、自社のホテリエ(従業員)を介護職員として養成してみたい。ホテリエレベルのホスピタリティ精神を持った介護職員が養成されれば、既存の老人ホームでは、とても真似のできない質の高いサービスを提供できる老人ホームを誕生させることが可能ではないか。そうなれば、きわめてブランド力の高い高級ホームとして、介護業界内で優位に立てるのでは? という筋書きを立てていました。しかし、その目論見は早々にあてが外れてしまいます。