いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

夜はゆっくり寝かせることが正しいのか?

老人ホームの夜勤者の主な仕事は、「ラウンド」と言われる安否確認のための居室巡回と、寝たきりの高齢者等に対する排泄介助です。中でも、深夜の排泄介助は、介護職員によって考え方、対応の仕方に違いが生じてくるところです。

 

A職員は、深夜0時に最終排泄を実施し、そこで夜用の大容量の吸収シート付きのオムツを装着させます。そのため、朝の5時までは排泄介助に入ることはなくラウンドだけ実施すればよいので、朝まで入居者はぐっすり熟睡することができます。

 

B職員は、いくら大容量の吸収シートがあるとはいえ、排泄をしたまま数時間放置することはけっして良いことではないので、深夜といえども3時間おきに排泄介助に入ることが正しい介護サービスだと考えています。当然、排泄介助時には、ほとんどの入居者は起きてしまいますが、それは仕方がないことだと割り切っています。

 

深夜の排泄介助は、介護職員によって考え方、対応の仕方に違いが生じてくる。(※写真はイメージです/PIXTA)
深夜の排泄介助は、介護職員によって考え方、対応の仕方に違いが生じてくる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

読者の皆さんは、いったいどちらの介護サービスをご希望でしょうか? 老人ホームの実態がわかっている読者にとっては、この選択肢は実に悩ましい限りだと思えます。

 

いくら夜用のオムツが大量の尿を吸収できる機能を備えているとはいえ、本人にとっては不快であることに変わりはありません。大容量の尿を吸収するといっても、それは単に外には漏れない、というだけです。つまり、布団が「汚れない」というだけの話なのです。しかし、排泄介助を実施すれば入居者は間違いなく目を覚まし、そして一度目を覚ました入居者は、場合によると朝まで寝ることができなくなるケースも散見されます。

 

余談ですが、「寝る」という行為には体力が必要なので、体力の無い高齢者の場合、一度目を覚ますとなかなか寝つくことができません。結果、体調不良の原因になってしまうこともしばしばです。夜、十分に寝ることができない入居者は昼間帯で寝てしまうので、昼夜逆転の生活になってしまい、健康を害してしまう恐れも高まります。

 

安眠を優先して朝までぐっすりか、常に快適さを追求し3時間おきの定時排泄で快適な眠りの環境維持を守るか。いったいどちらの方法が、入居者にとって最善なのでしょうか。

 

私自身にも、どちらが良いのかという明確な回答は、実はありません。意地悪な表現をすれば、3時間おきの定時排泄介助で快適な眠りの提供を目指す場合、自分は「頑張っている介護職員である」という自己満足がほしいだけなのでは?とも思えてきます。

 

逆に、朝までおむつ交換をしないことで「睡眠妨害をしない」という場合、介護職員の職務怠慢なのでは?と言いたくなる気持ちもあります。はたして、どちらが正しい介護なのか?

 

私は介護サービスのことを考えた場合、行動はどうあれ、目の前の入居者に思いを寄せて、「相手のことを考える時間を持つこと」「相手のためにどうすればよいのか、悩む時間を持つこと」が一番のサービスなのでは、と考えています。

 

あなたは、自分が寝たきりになった場合、いったいどちらの選択肢を選ぶのでしょうか?

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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