固定資産税を下げただけでも自治体破綻が起こる
すでに「所有者不明土地」では、その多くで固定資産税が払われない事態が引き起こされています。今のところ所有者不明土地の多くが地方の山林や農地であり、滞納額はそれほど大きなものではありませんが、今後都市郊外部において、所有者不明土地が出現するようになると、問題は大きくなってきます。
納税する側から見ても、たしかに家族が住んでいて街が賑わっていたころであれ ば、税金負担も納得のいくものだったかもしれませんが、空き家となり、周囲も同じような状態となり、「貸せない」「売れない」状態で同じように税金を徴収されることには納得のいかないものがあるでしょう。
首都圏のニュータウンといわれているような住宅地であれば、年間の固定資産税は10万円から15万円は優にします。誰も住まないからといって家屋を撤去しようものなら、土地部分の税金は最大で6倍に膨れ上がります。
ただ所有しているだけでこれだけの税負担をすることに、納得感は少ないように思われます。
今後予想されるのは都市郊外部において、固定資産税評価額の適正な評価を巡って自治体を相手取った住民訴訟が頻発することです。平成バブル時であればまだしも、資産価値が大きく減じられてしまった現在の不動産に対して、当時と変わらない税金を課すことに対しての不満が、訴訟という形になって社会問題化することになりそうです。
訴えられる自治体にも、苦しい胸の内があります。全国の市区町村の財政状況は大変苦しい状況にありますが、自治体の歳入の約半分が固定資産税で占められているのです。つまり、不動産価格が下がったからといって、おいそれとは評価額も下げて税金を安くすることはできないのです。
「固定資産税減らしました。自治体潰れました」
日本創成会議人口減少問題検討分科会の推計によれば、このまま人口減少と高齢化が続くならば2040年までの間に全国で896もの自治体が消滅する可能性があるとの発表をしましたが、固定資産税を下げられただけでも自治体破綻が起こりうる状況にあるのです。
牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役