日本で「こころの病が急激に多様化」したワケは…
昭和の高度成長期には「アルコール中毒」(現在は「アルコール依存症」という名称になっています)が急増しました。戦後のなにもなかった時代から、人びとが急速に豊かになりはじめた時代です。当時の「豊か」というのはモノを手に入れることで、人びとは三種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)や3C(カラーテレビ、クーラー、マイカー)を買うために、モーレツに働きました。
一方で、庶民の息抜きはお酒を飲むくらいしかありませんでした。ほとんどの人たちはそれを明日への活力にできましたが、なかにはお酒に過度に依存し、心身がボロボロになってもなお飲酒をやめられない人たちも出てきたのです。
人びとが物質的な豊かさを追い求めた時代の絶頂が、バブル期でした。マイホームや高級車やブランド品が飛ぶように売れ景気は最高潮だったのですが、その影でストレス発散のための買い物がやめられず、病的に借金を膨らませてしまう人たちが出てきました。
いわゆる「買い物依存症」は単なる“浪費癖”と見られがちですが、歯止めが利かず社会生活が送れなくなるまで繰り返してしまうのは立派にこころの病です。
その後、バブルが崩壊し、「失われた20年」といわれる時代に突入すると、年功序列や終身雇用のシステムが維持できなくなり、倒産やリストラで職を失う人が増えました。能力主義や成果主義が導入され、機械化やIT化が進み、貧富の格差はますます拡大する一方です。
そうすると、こころの病にも多様化の傾向がみられるようになってきます。プレッシャーに押しつぶされてうつや適応障害になってしまう人、麻薬や危険ドラッグに手を出してしまう人(薬物依存症)、パチンコやスロットに入り浸りになってしまう人(ギャンブル依存症)、痴漢やのぞきを繰り返して何度も逮捕される人(性依存症)、衝動的に万引きを繰り返してしまう人(クレプトマニア)、ほかにも、過食症、摂食障害、ひきこもり(対人恐怖症・家族依存)、DV(家庭内暴力)、ネット・ゲーム依存……etc.