電気ショック、牢屋に収容…日本で行われていた治療
いかに高度な医療をしても老いに抗うことは不可能ですが、認知症の進行を遅らせあるいは症状とうまく折り合いをつけながら、できるだけ社会のなかで余生を過ごせるようサポートすることは可能です。
医療としてのシルバーケアと、福祉介護としての生活のケアは、似ているように見えてじつはまったく違うのです。
■社会が生み出すこころの病
こころの病というのは、いつの時代にもあるものです。が、その症状は時代時代によって違ってきます。こころの病とは、その時代の社会が生み出すものです。
たとえば、江戸時代の日本には「キツネつき」といわれる精神錯乱がありました。さっきまでふつうに話していた人が、突然にうずくまったかと思うと、ブルブルとふるえだし、その体にまるでキツネの魂を宿したかのように振る舞うのです(タヌキやイヌやヘビがつくこともありました)。
これはキツネが当時の人びとにとってとても身近な動物で、かつ「お稲荷さん」のように畏怖や信仰の対象であったことが背景にあります。キツネを動物園でしか見かけないような世の中になり、人びとが「たたり」のような迷信を信じなくなると、「キツネつき」になる人はとたんにいなくなってしまいました。
明治時代から昭和初期にかけてのこころの病といえば、「早発性痴呆」がほとんどでした。早発性痴呆はのちに「精神分裂症」という呼び名になり、さらに現在では「統合失調症」という名称になっています。
原因は現在でもはっきりとはわかっていないのですが、急にわめき声をあげて暴れるといった手に負えない状態になるので、昔は縛り上げて自由を奪うか、牢屋に閉じ込めて監禁するかしかありませんでした。あるいは電気ショックといって脳に電流を流す治療がおこなわれたこともあります。
いまは抗精神薬の服用やリハビリなどによって感情の起伏をある程度コントロールすることができるようになっていますが、先ほどものべたように症状自体の軽症化もみられるようになっています。