いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

現役時代の肩書にしがみつく男性は嫌われる

有料老人ホームでは、男性入居者の多くに介護職員から嫌われるケースが目立ちます。特に、現役時代の肩書にしがみついている男性は嫌われる傾向があります。何かにつけて「俺は元〇〇企業の部長だった」「〇×企業ではこんなことは許されなかった。もっとしっかりやりなさい」などといった発言。現役を離れて20年近く経つのに、未だに当時の肩書や組織を引きずっている男性。当時のまま自分だけ時間が止まっているような男性入居者。

 

彼らは総じて介護職員の受けはよくありません。本来、企業人の肩書とは、その企業を退職する時に自動消滅するものであり、今までの実績もチャラになるものだと思います。そして、その後のその肩書は後任者が引き継ぐものであり、自分はもうその任にないということを自分に言い聞かせたほうがいいはずです。少々厳しい言い方になりますが、老人ホームに入ってしまえば、その老人ホーム内では全員同等なのです。かつての肩書や預貯金の金額などで優位に立つことはない、と考えたほうが賢明なのです。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

Aさんは、有名大手スーパーの元部長。「ある事件が無ければ自分が社長になっていた」が口癖です。そこにBさんという新しい入居者が入ってきました。Bさんは、有名アパレルメーカーの元重役です。ホームに入るまで、直接二人は面識はありません。しかし、勤務していた会社同士の取引は今も存在しています。

 

ある日、介護職員が何気なく話した会話の中で、AさんにBさんの元勤務先が判明してしまいました。Aさんは「自分は〇〇スーパーの元〇×部長だけど、現役の頃よくあなたの会社の〇〇君に売上が足りないと泣きつかれて面倒を見ていたんだよ」と言い始めます。Bさんもその話に合わせ、お礼を言います。ここまでは、和気あいあいでよかったのですが、この人間関係が日に日に激しくなっていきました。

 

Aさんは、Bさんに対し「誰のお陰であなたのいた〇〇社は大きくなったと思っているのか。私のいた〇×スーパーのお陰だろう。もっと感謝してくれないと困るよ」と高圧的に出ています。最初は話を合わせていたBさんですが、侮辱されるような言動を何度もとられているので黙っていません。「何を偉そうに。あなたは仕事で失敗して失脚したんだろ。部長職を首になって、窓際に長くいたってことは知っているんだ」と反論します。それからこの二人は犬猿の仲になり、そのお陰で入居者全員がいい迷惑になります。

 

食事も、Bさんの顔を見て食事をするとまずくなるからと言って、Aさんだけ自分の部屋ですませます。入浴やレクリエーションも二人が顔を合わせることが無いように、介護職員が細心の注意を払うようになり、その結果、どちらかを特別扱いしなければならなくなりました。他の入居者からも、二人が口論をしているので止めてほしいという要望が相次ぎ、さらに、入居者の家族からは「二人のことに介護職員の意識が向きすぎているので自分の親がおざなりになっていないか心配だ」と言われてしまいます。

 

二人は介護職員に対しても相手の悪口を言うので、「いい加減にしてほしい」と介護職員が言い出す始末です。結局二人は、介護職員らの仲裁で何度も和解を試みましたが、約2年間冷戦状態が続き、Bさんが体調を壊して入院、病状が芳しくなく、結局帰らぬ人になってしまいました。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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