都心で始まる「テナントドミノ倒し」
こうした「押すと餡出る」効果が、実は都心部のオフィスビルの空室率の改善の「本当の理由」であることは、あまり知られていません。
壊されたビルの多くは、都心部の容積率(土地面積に対して建設できる建物床面積の割合)割り増しの恩恵を受けて、巨大なオフィスビルに生まれ変わることになっています。
さてこれらのビルのほとんどすべてが竣工を迎える2020年以降も、オフィスビル市場は本当に安泰でいられるのでしょうか。
さらに問題はややこしくなります。多くのビルは都心3区に建設されているので、賃料はおおむね月額坪当たり4万円を超える条件となってくるはずです。これらのビルのすべてが顔を揃えた時に、そうした条件で入居するテナントがどのくらいいるのでしょうか。
月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントは、今でも外資系金融機関、国際法律事務所、一部の新興企業や上場グローバル企業など、ほんの一握りにすぎません。市場にどんなに超高級物件を並べても、提示された条件を負担できるテナントはごく少数なのです。
国内の有力デベロッパーは、相も変わらず、丸の内は三菱、日本橋は三井、六本木は森、新宿は住友といった国盗り物語に余念がありませんが、みな自社の開発した巨大ビルには必ず坪4万円以上の賃料を負担してくれるテナントが入居してくれると考えているようにしか見えません。
国や都は、東京を国際金融センターにしていく構想を発表していますが、実際には 機能するのでしょうか。私の知る限りにおいてはアジアの国際金融センターはシンガポールであり、香港です。
英語も通じず、アジアの諸都市に出かけるにも遠い、アジアのファーイースト日本のさらに東端の東京では、いかに得意の国家戦略特区を駆使しても、合理性の塊である金融資本主義者たちが集まるようには思えません。
2020年、巨大航空母艦ビルは、テナントを求めて既存の大型ビルのテナントを引っこ抜く。引っこ抜かれた大型ビルは中型ビルのテナントに手を付ける。中型ビルは小型ビルのテナントへ襲い掛かる。「テナントドミノ倒し」のスタートが始まるのはこれからなのです。
牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役