孤独に暮らす男性が、病気で困っていたときに手を差し伸べてくれた同僚と義理の甥のやさしさに感激…。住む場所も知らない疎遠な姪ではなく、尽くしてくれた他人に遺産を渡すにはどうしたらいいのでしょうか。実際の相談事例を見ていきましょう。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

妻を亡くして孤独な夫、血縁者とのつきあいもなく…

今回の相談者は、団塊世代より少し年齢が高い、E藤さんです。E藤さんは集団就職が盛んだった昭和40年代、故郷の東北地方から上京し、電力会社のグループ会社に就職し、そのまま定年まで勤め上げました。現在は都内の単身向け賃貸物件に暮らし、公的年金と企業年金で、堅実かつ安定した生活を送っています。長年のつつましい生活のおかげで、4000万円ほどの預貯金は手つかずのままです。

 

E藤さんには子どもがなく、長く連れ添った妻は、E藤さんが現役の会社員である50代のときに亡くなりました。同郷の妻とは、就職した年に知り合って以降、ずっと寄り添って生活してきましたが、籍を入れるタイミングを逃し、内縁関係のままでした。その妻が旅立ってからは、ひとりで静かな暮らしを続けています。

 

E藤さんは自分の親族とは親しい付き合いをしておらず、就職してからというもの、ほとんど実家に帰ったことはありません。故郷の両親はE藤さんが30代のころに亡くなりましたが、とくに財産はなく、相続も発生しませんでした。同居や介護の問題に悩むこともなかったため、その点では幸いだったと考えています。

 

E藤さんには6歳年上の兄がいますが、その兄もすでに亡くなっています。身内といえるのは、亡兄の娘2人だけですが、姪たちとは両親の葬儀や兄の葬儀のときに会った程度で、これといって親しい言葉を交わすこともありませんでした。当然日頃の交流もなく、どこに住んでいるのかも知りません。そのため、E藤さんは姪たちに自分の老後を頼んだり、財産やお墓のことを託すといった心境にはなれません。

 

●相続人関係図

遺言作成者:E藤T博さん60代(作成時)
推定相続人:亡長男の娘2人(姪)

手術の際に助けてくれた、同僚・妻の甥っ子に「感激」

E藤さんは定年を目前とした50代の終わりに、会社の健康診断で深刻な問題が見つかり、入院・手術を経験しています。妻を亡くし、ひとり暮らしのE藤さんには大変なことばかりでしたが、それを察した職場の同僚の女性であるT中さんが、身の回りのものをそろえたり、様々な手続きを手伝ってくれたりと、本当に温かく親切にしてくれました。

 

このときのサポートが非常にありがたく身に染みたため、そのお返しに、自分の財産の一部を田中さんに託したいと思っています。また、亡き妻の甥であるW辺さんにも、病気のときはもちろん、妻が健在のときから交流し、なにかと気にかけてもらっているので、残りの財産を渡したいと考えています。

 

「病名が確定して手術が決まったとき、私はだれにもいわなかったのですが、同僚のT中さんが様子を察してくれまして。身内のように親身になって、あれこれ面倒を見てくれたんです。本当に涙が出そうなくらいありがたくて、うれしかったですね。頼りたくても妻はいないし、深刻な病名を宣告されて、不安でたまりませんでしたから…。うちの親族はみんなドライで、昔から困ったときに相談したり、頼り合うようなことはなかったんです。だからでしょうか、余計に人の優しさが身に染みました」

 

「妻の甥っ子は、なぜか私によくなついてくれて、子どもの時から交流があったんですよ。妻が亡くなったあとも気にかけてくれて、たまに家で一緒にお酒を飲んだり…。入院したときは、同僚のT中さんと連絡を取り合って、あれこれと世話を焼いてくれました。義理の関係なのにね。優しくて本当にいい子なんです」

 

あああ
入院・手術の際、同僚が親身になってくれて…(※写真はイメージです/PIXTA)

 

E藤さんは、病気のときに手を差し伸べてくれたふたりに、何かの形で恩返ししたいと思い、自分が亡くなったときに財産を渡すことにしました。親族でもない方に財産を渡すにはどうしたらいいのかを調べるうち、筆者の事務所に行き当たったとのことでした。

 

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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