先祖代々の資産家で、手広く事業を展開する名家の当主は、長らく一緒に生活していた愛人がいました。男の子が生まれて認知もしていますが、年齢を重ねて相続が現実的になってくると、さまざまな思いが胸をよぎります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
歴史ある造り酒屋の主が暮らした「もうひとつの家庭」
今回の相談者は、先祖代々造り酒屋を経営するY田さんです。Y田家の家業は天保時代創業という歴史あるもので、近江商人として地元で手堅く商売を継続しつつ、他県にも複数の商売拠点を保持しています。また、先々代からは日本全国に取引先を開拓するほか、ここ10年の間にはヨーロッパを中心とした海外の企業とも取引をスタートさせ、着実に事業拡大を進めてきました。
資産家の大地主の家柄であることから、地元はもちろん、他県での商売の拠点周辺地域でも、お寺や神社の総代を務めてきた実績があります。また、本家長男であるY田さんは家督相続の時代、家長として先代からの名前も踏襲し、財産も一手に相続しています。Y田さんの弟たち、いとこたちをはじめとする親族も、先祖代々の財産の恩恵で生活をしています。
Y田家は造り酒屋のほか、自動車販売会社も経営しています。地元を中心に何店舗も出店している中堅企業です。造り酒屋と自動車販売会社の実務は弟や甥に任せ、Y田さんは会長として諸々の商売を監督・取りまとめてきました。そのため、生活には時間的にも金銭的にも余裕があり、自分の子どもが幼いころからほとんど家に帰らず、愛人宅で生活していました。
愛人との間には長男と同い年の男の子も生まれており、認知したうえ、東京の有名私立大学を卒業させました。いまは大阪に本社のある大手企業で会社員をしています。
Y田さんと配偶者との間に4人の子がいます。きょうだい構成は、長女・長男・次女・三女です。3人の娘たちは大学を卒業後すぐに嫁がせ、それぞれ子どもに恵まれました。しかし不幸なことに、長女は数年前交通事故で亡くなってしまいました。長女の代襲相続人は、残された3人の子どもたちです。長男はY田さんの弟(叔父)の下で会社経営の修行をしています。
●相続人関係図
遺言作成者:Y田正作さん・70代 会社役員 (作成時)(家系図)
推定相続人:妻・亡くなった長女の子3人・長男・次女・三女、認知した子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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