カビの発生により、家と人の健康を著しく損ねる
そもそも、昔から日本の家は冬には寒く、夏は暑いのが当たり前でした。
鎌倉時代の法師・吉田兼好は、『徒然草』で「家の作りやうは、夏を旨(むね)とすべし」と記しています。日本の夏は高温多湿で、ジメジメした蒸し暑さです。ひどい暑さで家の土台や柱などが腐らないようにするために、古来より日本人は床を高くして窓を大きくとり、間取りは風通しを第一に考えてつくられてきました。法師のいうように、家のつくりは夏に合わせるべきであり、逆に冬の寒さはひたすら我慢すべきだということが当然のこととされてきたのです。
日本古来の茅葺(かやぶ)き屋根の住まいを見ると、遮熱効果のある屋根と気化熱冷却効果で、夏の蒸し暑さや湿気などを防ぎ、かつ室温を下げる風通しのいい構造になっています。また、風通しをよくすることは、家に使われている木材をカビや木材を腐らせる「腐朽(ふきゅう)菌」から防ぐための知恵でもありました。
そして冬は、断熱効果の高い屋根で放射冷却を防ぎ、採暖で過ごすというのが古くからの伝統でした。つまり、輻射熱をたくみに利用し、寝具や着衣の量を季節ごとに変えるウォームビズの生活を確立していたのです。
そんな、季節に応じて衣替えするだけの日本の家づくりに革命的な変化をもたらしたのが、高気密・高断熱住宅です。
今からおよそ年前、復興の真っ只中にあった戦後の日本は住まいを増産。とにかく雨風をしのげればよく、すき間だらけの家がほとんどでした。当時は断熱材などありませんから、夏は暑く冬は寒い「エネルギー垂れ流し住宅」というべきものでした。
その後1970年代に原油価格が高騰してオイルショックと称された経済混乱が起き、日本は省エネ社会の実現に向けて取り組みを始めました。断熱が重視され、ようやく日本の住宅にも、省エネルギー効果を期待してグラスウールなどの断熱材が使われるようになります。グラスウールはガラスの短繊維を綿状にしたもので、価格が安いだけでなく簡単に施工できることから、現在も多くの家づくりに用いられています。
これらの断熱材によって開口部の高断熱化・気密化が進み、省エネかつ断熱性能が向上した「冬暖かくて夏涼しい家」がつくられるようになってきました。
従来では考えられなかった、換気不足による結露の発生
しかし、高気密・高断熱住宅が一般的に普及した一方で、従来では考えられなかった問題が発生するようになりました。トラブルの一つが、換気不足による結露の発生です。先ほど述べたように、昔の日本の家はすき間風が多かったので、何もしなくても室内の空気はすぐに入れ替わっていました(圧力差換気)。しかし、高気密化してすき間がなくなり、かつ換気システムが不十分で空気の入れ替わりが悪くなると、室内で発生した水蒸気や人の呼吸で発生する水蒸気が行き場をなくし、家の中に湿気がたまりやすくなります。そして室内に少しでも温度差ができれば、その部分に結露が発生しやすくなってしまったのです。
結露とは、水蒸気を含んだ空気が露点温度より冷えることによって発生する現象です。
例えば、自動販売機で買った冷えたペットボトル入りの飲みものをバッグに入れてしばらくすると、ペットボトルに水滴がたくさんついて、バッグの中が濡れることがあります。
これが結露です。
暖かい空気は豊富な水分を含むことができますが、だんだん温度が下がって空気が冷えると、水分は空気の中から水になって出てきます。この現象が家の中で起こると、暖かい空気が窓や壁、木材に触れて冷やされ、結露になって水滴が付着する状態となるのです。
カビは、結露によって生じる濡れてジメジメした場所が大好きです。風通しが悪くて湿度が高い場所は、カビの格好の繁殖場所になります。風呂場や洗面所、キッチンの水回り周辺のほか、性能の悪い窓や押し入れなどにも発生しやすくなります。
また、エアコンで冷房や除湿運転をしているとエアコンの内部や冷風があたる壁面などは湿気だらけで濡れた状態になり、結露しやすくなります。エアコンの内部にカビが繁殖すると、部屋中にカビの胞子が飛び散る原因になってしまいます。