新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

「何のために家を持つのか」の意外な答え

こうした買い方に対する、私から見た懸念は以下のとおりだ。

 

(1)マンションが竣工する2年後、東京湾岸の中古マンション相場が下落するリスクを考慮していない(途中で売却したときに売却損が出る可能性がある)

 

(2)夫婦共働きで1000万円。どちらかがリストラ、あるいは健康を害した場合の担保が何もない。もちろん夫婦仲が悪くなったときのことは、余計なお世話だが一切考慮していない

 

(3)東京都内であって、人口は逓増していても、年齢構成については今後、急激に高齢化して、家に対する実需は確実に減少する

 

(4)今後都内の団塊世代以上が保有する戸建て、マンションが相続の発生で大量に売却あるいは、賃貸物件として出回ることが予想される

 

(5)この世代は年金受給の受け取り時期の大幅な遅延と、支給額の減少が避けられない(退職金の一部でローンの返済を考えるのは非常にリスクが高い) 

 

(6)35年後のマンションが老朽化した物件であること。マーケットの中で、このマンションがビンテージマンションになる可能性は低い

 

日々の買い物には一切の無駄なく、ネットを駆使しながら常に合理的な判断を下していく彼らが、

 

「いったい何のために家を持とうとしているのか」

 

という問いに対して、「今」という視点だけで、しかも35年もの先までのことを「まあ大丈夫だろう」という不確かな確信で、これからの人生で稼ぐおカネの大半(35年間で金利分を含めると9800万円!)を投じようとしているのである。「金利」と「税金」の優遇は家を買わせるための「誘い水」であり、その誘い水に乗っかって、人生のすべてをローン返済のために費やすことについては、「これから世代」の人たちはもっと慎重になったほうがよいように思える。

 

誘い水をこしらえた国も、そしてさわやかな笑顔でセールスしたモデルルームの女性も、そして淡々と手続きをする銀行員も、これから膨大な時間をかけて返済をしていくあなたの人生に対して、さしたる興味があるわけでも、ましてや保証してくれるわけでもないのだ。

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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