年間約130万人が亡くなる日本社会。故人の遺産をめぐり、親族間で醜い争いになるケースが多発しています。相続が発生してから「家族と絶縁する羽目になった…」「税金をごっそり取られた…」と後悔してしまわないためにも、トラブル事例を見ていきましょう。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説していきます。
相続財産は「借地に建つ自宅」と「わずかな現金」
相談者のE藤さんの父親が都内の借地に建てた家は、すでに築数十年を経過しています。かつては瀟洒(しょうしゃ)な建物で、便利な場所にあり、E藤さんは幼少のころからその建物に暮らしていました。きょうだいたちも学校を卒業するまで、ずっとその家で育ったということです。
E藤さんをはじめ、きょうだいもそれぞれ就職や結婚で家を離れましたので、両親は晩年、2人で生活をしていました。しかし母親が先に亡くなり、父親も数年後に亡くなってしまいました。財産としては、その自宅建物とわずかな預金程度です。
●相続関係者
被相続人:父親(無職)、配偶者なし(すでに死亡)
相続人 :4人(子ども 長男・相談者、長女〈海外在住〉、次男、次女)
海外在住の長女の相続手続き方法がわからない!
父親の相続財産は基礎控除の範囲内でしたので、申告の必要はありません。財産の分け方も、きょうだいたちは長男であるE藤さんに任せるという意向でした。いまではそれぞれ自宅もあり、借地である実家を必要とする相続人もいません。預金はわずかなもので、自宅を解体して地主に返すときの費用を考えると、足りるかどうかが不安を感じる額でした。
とりあえずは全財産をE藤さんが相続し、きょうだいたちが相続するものはないとすることで合意は得ましたが、問題は、海外に住む長女のことです。相続人が海外在住の場合、どのように手続きをしていいのか、さっぱりわかりませんでした。そこで困ったあげく、以前メディアに出ていた筆者を思い出し、相談に来られたということでした。
老朽化した実家、借地権を売却したいが…
●長女は印鑑証明のない海外居住者
遺産分割協議書には、実印押印、印鑑証明添付が原則ですが、海外に住む人には、印鑑証明書がありません。実務的には、遺産分割協議書を作成し、そこにサインをしてもらうとともに、領事館でサイン証明を発行してもらって、割り印ももらうことになります。
まずは、E藤さんはじめ、日本の相続人の実印押印を住ませたあと、遺産分割協議書を長女のもとに送付し、手続き後に返送をしてもらいました。この書類で遺産分割協議が完了し、借地権である建物の登記をE藤さんにできたのです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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