新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

新宿高層ビル地下で行われる「ネズミの躾」

ネズミで思い出すのは、以前新宿の超高層ビルでビル管理の仕事をしていたときの出来事だ。当時私は不動産会社に勤めていて、本社から異動を命じられ、新宿の超高層ビルの管理業務を命じられた。本社でオフィスビルの開発や運用はやってきたものの、現場での管理業務は初めての体験だ。

 

着任早々、私のデスクの上には消毒会社からその月に定期的に実施されている「殺鼠殺虫報告書」が置かれていた。内容を見ると「ネズミ60匹」を捕獲退治した旨の記載がある。まさか超高層ビルでネズミが60匹も捕まるのかと不審に思った私は、消毒会社の担当を呼び出し、「60匹も捕れたのですか。この数、普段はどうなんでしょうか」と聞くと、担当者は涼しい顔で、

 

牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)

「いや、ちょっと多めですかね。念のためもう1回やっておきましょうか」

 

と言うので、

 

「そうだね。じゃ頼みますよ」

 

と再度の殺鼠殺虫をお願いした。

 

数日後、消毒会社の担当者から受け取った報告書に記載されたネズミの数はなんと「57匹」。まったく減っていない。心配になって上司に報告をすると、その上司はニコニコしながら驚くべき発言をした。

 

「ははは、だめだよそんなことしちゃ。何回やってもそんなに変わりゃしないよ。ネズミの数なんて」

 

びっくりする私に、上司は続けた。

 

「あのね。ネズミを退治しようとしても無駄だ。この新宿の高層ビル群の下に人間よりも多くのネズミが生息している。うちのビルで殺鼠剤を配管に流し込んでも奴らはあわてて逃げて地下配管を通って隣りのビルに逃げ込むだけだ。逃げ遅れた60匹くらいのバカなネズミが捕まる、ってことだ。奴らはこの広大な新宿の地下を縦横無 尽に走り回っているから、殺鼠剤をいくら撒いたってそんなもの消毒会社を儲けさせるだけだよ」

 

「ネズミはね、せん滅しようとしても無駄だ。いいか、躾けるのだ。のこのこ出てきて人前に姿を晒してはいけないってね。躾けるために定期的に殺鼠剤を撒いて警告を与えるのだよ。そしてその警告を無視してきたら、さらに大量の殺鼠剤を撒いて𠮟りつけてやるのだよ」

 

さて、豊洲新市場でも、ネズミが生息するようになるだろう。新市場は最新の市場であるからネズミは出ないと高をくくっているかもしれないが、奴らは必ず新市場にもその姿を現わすことだろう。新市場でも新たに「躾ける」ことでネズミたちに粗相をさせないようにしていくしかなさそうだ。

 

そんな思い出話を夜遅く、客の多くが帰った新橋の古いビルの地下の居酒屋で話していると、私の席の数メートル先を猫と見紛うほどの立派な体軀をしたネズミが悠然と横切って行った。ネズミは、このビルの主であるかのように余裕の顔つきだった。

 

ネズミ恐るべし、だ。

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

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