新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

客室の「消耗品」は持ち帰っても大丈夫!

ホテル関係の仕事をしていてよく尋ねられる質問に、

 

「ホテルに備え付けの備品で、持って帰れるのはどこまでなの?」

 

というものがある。持ち帰りについてお客様の間では独自基準を持っている方が多く、ホテル側を悩ませることとなる。

 

ホテルの備品はどこまで持ち帰っていいのか。
ホテルの備品はどこまで持ち帰っていいのか。


答えは簡単で、基本的に「消耗品」は持ち帰っても大丈夫、というのがルールだ。

 

たとえば、浴室などにあるアメニティ類。シャンプーや石鹸、ボディソープ、ブラシ、髭剃り用のレザーなどは、持ち帰ってもよい。ただ、お客様の中には、ボトルに入ったボディソープやシャンプーの中身を全部抜き取る、ティッシュボックス内のティッシュを全部持ち去る猛者がいる。これはおやめいただきたい。

 

お客様が持ち帰ってよいかよく迷うのが、ドライヤーやパジャマ、タオル、バスローブなどのリネン類のようだが、これはダメ。ホテルではリネンは繰り返し洗濯して使っている。「記念品に」などといって旅行鞄にしまい込むお客様がいるが、これもおやめいただきたい。


ドライヤーももちろんNGだ。昔はホテルのドライヤーは洗面室などに壁付けにして盗難に遭わないようにしたが、今はそのまま置いてある場合が多い。ドライヤー自体の価格が安くなったせいもあるが、置いてあるからといって持ち帰ってよいものではない。


最近はベッドサイドの時計がパネル式ではなく、普通の置き型の目覚まし時計を備えるホテルが増えているが、これも持ち帰りはNG。まだベッドサイドの置き型目覚まし時計が珍しかった頃、あるリニューアルしたホテルの客室に設置したところ、毎日5個くらいがなくなった。コンパクトでちょっとおしゃれな時計だったせいか、バッグに入れて気軽に持ち出すお客様が続出したのだ。時計にホテル名を入れるのもいやらしいので、時計にチェーンをつけてベッドとつなげてしまうことで持ち帰りを防いだものだが、チェーンごと引きちぎられたこともあった。これは明らかに窃盗だ。

 

リネン類や時計などはまだ序の口だ。

 

少し昔のことだが、ある朝、ホテルのフロントに、宿泊のお客様から電話があった。かなり大きな荷物があるので台車で部屋から運ぶのを手伝ってくれないか、との要望だ。

 

そこでホテルスタッフが倉庫から台車を取りだして部屋に伺うと、段ボールに入った大きな荷物が鎮座している。これは大変でしょう、ということでお客様と一緒にウンウン言いながら台車に積み、車までお運びした。ホテルスタッフはお客様に寄り添い、お役に立つのが信条だ。お客様からは「ありがとう。助かったよ」のお言葉。ホテルスタッフが自分の仕事に一番の喜びを感じる瞬間だ。そして笑顔でのお見送り。

 

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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