新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

台車でテレビを運び出したツワモノも

ところが、部屋の清掃係から思わぬ報告があった。なんと、部屋にあったテレビがない!

 

お客様が運び出したのは、客室内にあった大型のテレビだったのだ。当時はブラウン管仕様のテレビだったから重量もあり、一人で運ぶのは難儀だったのだろう。その作業をホテルスタッフに命じて運び出す、とんだ猛者がいたものだ。

 

テレビは、最近では液晶テレビが主体になった。従来のブラウン管テレビよりもはるかに軽くて薄い。これはもっと危険。多くのホテルでは対策として、テレビ配線はワイヤーにする、テレビ台座に固定するなどして盗難防止に努めている。

 

テレビは特殊な例かもしれないが、実はお客様のお帰りになったあとのホテルでは、多くのものが紛失している。

 

 

京都にあるホテルの大浴場のリニューアルを行なった時の話。最近はホテル内に大浴場を設けて、宿泊のお客様に一日の疲れを取っていただこうというホテルが増えている。その大浴場のリニューアルにあたって、入浴後のお客様がマッサージチェアなどで寛(くつろ)げるスペースを設置することになった。

 

京都の雰囲気に合わせて和風モダンな設(しつら)えとし、箱庭を設け、薄明かりの中、それぞれのスクリーンで仕切られたスペースにマッサージチェアを備え、女性の方でも浴衣姿を気にすることなく、マッサージを楽しめるリラクゼーションスペースとしたのだ。

 

また、京都に宿泊するお客様はビジネスホテルであっても観光目的の方が多いので、大きめのテーブルと椅子、それに雑誌などが飾れるマガジンラックを設け、京都の写真集や旅関連のガイド、京料理の書籍などを備えて、いつでも自由に閲覧ができるようにした。さらにラックの上には、おしゃれなスタンドと京都らしく短く切りそろえた若竹を小洒落た花瓶に挿してあしらった。

 

狙い通りにお客様には大好評。もともと人気のあった大浴場にリラクゼーションスペースが誕生し、ホテルスタッフの士気も高まるというものだ。

 

ところがオープン1週間後、ホテルの支配人から耳を疑うような報告があった。

 

「牧野さん、マガジンラックにあったガイド、雑誌、書籍が全部なくなりました」

 

実は、リニューアルを計画している時にも多少の紛失は予想していたのだが、いちいち雑誌や書籍にまでホテル名をつけるのは、図書館みたいで野暮だからということで目をつぶっていたのだが、まさか1週間で全滅とは。

 

さらに翌週には、花瓶に挿してあった若竹が全部なくなるという事態に発展した。

 

いったいどうやって持ち出すのだろうか。お客様みんなに喜んでもらおうとホテルスタッフがお寺に行って譲り受けてきた若竹だというのに。これはもう確信犯だ。

 

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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