冬の朝、異変を感じた一本の電話
「母が電話口で“家が寒い”と言ったとき、何かおかしいと思ったんです。実家は灯油ストーブがあるはずなのに…」
そう語るのは、神奈川県在住の会社員・中田啓太さん(仮名・45歳)。1人暮らしをしている実母・文江さん(仮名・78歳)から、数年ぶりに電話がかかってきたのは、1月のよく冷え込んだ朝のことでした。
「電話の声が震えていたし、“最近あんまり食べられないの”なんて、弱気なことも言っていて。これは普通じゃないと思って、急きょ帰省したんです」
中田さんの実家は、北関東の小さな団地の一室。築年数も古く、暖房は灯油ストーブのみ。高齢者には決して優しい環境とは言えません。
「玄関を開けた瞬間、冷たい空気が肌を刺しました。暖房の気配がまったくなくて、母は布団の中で何枚も毛布をかぶっていました」
中田さんが見たのは、暖を取れず凍える母の姿だけではありませんでした。
「テーブルの上に、半分食べかけでカビが生えたおにぎりがあったんです。灯油缶も完全に空になっていて。生活が“止まっている”ように見えました」
文江さんは、食欲もなく、灯油を買いに行く元気もないまま数日を過ごしていたといいます。
「母に“なんで誰にも言わなかったの?”と聞いたら、ポツリと“誰にも迷惑かけたくないの”と…」
文江さんは、年金月16万円の中でやりくりしながら一人暮らしをしてきました。
総務省『家計調査(2024年)』によれば、65歳以上単身無職世帯の平均支出は月約15万円、うち“食料費”が約4.2万円、“光熱・水道”が約1.4万円。決して贅沢をしていなくても、ちょっとした体調不良や冬の寒波で、暮らしは簡単に崩れてしまいます。
「母の口座には少しずつ積み立てていた貯金もあったんです。だから“お金がない”わけじゃなかった。でも、灯油の配達を頼む電話さえ、遠慮してしまっていたみたいです」
