【医療崩壊】コロナ感染者を受け入れた病院「9割赤字」の絶望

東京大学を卒業した杉山宗志氏は、福島県いわき市を中心に展開する「ときわ会グループ」にて、病院の事務方として働いている。医療現場の現状に大きな注目が集まるなか、現場からの声を聞いた。

コロナ拡大の影響により医療機関の閉院が相次いでいる

◆クリニックの閉院について

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、医療機関の経営が苦しくなっています。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が6月5日に公表した『新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査』の追加報告では、全国の3分の2の病院が赤字に転落しており、都内の新型コロナウイルス感染者を受け入れた病院では、9割が赤字に陥ったとされています。閉院を検討している医療機関もあるようです。

 

「閉院」という事態になった場合、どのようなプロセスを踏むのでしょうか。実は我々も以前、クリニックの閉院を経験しました。患者さんにとって最も良い選択は何かを考え、その場所での診療を存続させようと事業譲渡を交渉するなど手を尽くしましたが、難しいと判断せざるを得ませんでした。

 

閉院判断の時点で、患者さんへの影響は免れません。そこの負担をいかに小さくするかが最重要課題でした。

 

閉院にあたっては、患者さんの紹介やスタッフの雇用に係る調整、医療機器等の撤去・処分、物件の賃貸借契約の処理、公的手続き、医師会との連絡などを同時に進めることになります。すべてをソフトランディングさせなければなりません。閉院を経験したことのあるスタッフはほとんどおらず、グループとしても初めてのことでした。

閉院の準備進むも「患者さんのために力を尽くします」

まずは在籍していた十数名のスタッフへの説明です。力を尽くしてきたスタッフたちに閉院を伝えることは非常に心苦しいですが、丁寧に説明するほかありませんでした。自分たちの今後が心配だというのにも関わらず、「最後まで患者さんのために力を尽くします」という言葉もあり、そのプロ意識とチーム力から、閉院が残念でなりませんでした。

 

閉院となると、患者さんの紹介を進めなければなりません。適切な医療機関を探し、診療を引き継いでいきます。

 

このクリニックでは人工透析を担っていました。人工透析はほとんどの場合、週3回行うことが必要です。間を空けることはできません。自宅や職場との距離を考え、患者さんの生活に十分配慮しながら紹介先を検討します。紹介先が決まったとしても、実際に行ってみたら合わなかった、という場合を想定し、再度受け入れられるようなフォロー体制や時間的余裕を確保し進めました。人工透析の患者さん50名近くの紹介で、2ヵ月半を要しました。

 

人工透析以外にも、専門的治療で、数ヵ月に一度、定期的に来院する患者さんも多数いらっしゃいました。閉院までの期間が限られており、来院スケジュールを変更していただかなければならないということもありました。

 

医療機関の閉院が相次いでいる。
医療機関の閉院が相次いでいる。

少しずつ少しずつ、院内からモノが消えていく

紹介が進み患者さんが減少してくると、診療の行われない時間が出てきます。患者さんの数に合わせスタッフのシフトを調整しながら、院内の片付けに手をつけ始めます。

 

医療機器や各種物品の他施設への移動、もしくは撤去を行い、スケルトンにして返すということで当初は進んでいました。医療機器の業者さんや解体業者さんとの調整です。診療は最終日まで継続するので、そちらに影響を与えないことを大前提にしつつ、賃貸借契約の面から、なるべく早く工事に手をつけられるよう考える必要がありました。

 

結果的にはスケルトンで返す必要がなくなり、賃貸借契約からも時間的余裕ができたことから、業者さんの作業開始は、診療がほとんど終了したあとで済みました。

 

診療終了後は医療機器や各種物品の移動・撤去作業のほかにもやらなければならないことが続きます。行政等への必要な事務手続きを行いつつ、閉院日まで続いた診療の保険請求も行います。請求のためのレセプト提出期間が定められていたため、診療終了日以降も医事スタッフがそれまでどおり請求業務を行いました。

 

カルテやレントゲンのフィルムをどうするかという課題もありました。医師法などの規定により、そういった記録は閉院後も一定期間管理することが必要です。紙カルテを利用していましたので、保管するための十分なスペースや移送手段を確保しなければなりませんでした。スタッフの手で段ボールに詰め、自分たちで車に詰め込み移動させました。

「閉院費用は2,000万円になるはず」だったけど…

そのほかにも細々とした処理は続きました。この時の閉院の最終決定から完了までの期間は、半年強でした。

 

閉院に係る費用は、借りていた500㎡をスケルトンにする場合2,000万円ほどになるとの見積もりでしたが、装置の撤去費用等で、数百万円程度となりました。ここから、退職金等が上乗せされていきます。

 

患者さんの紹介が進むと、同時に収益は一気に下がります。最後の2ヵ月は、通常の収益の半分以下になり、最終的な収支に大きく響きました。

 

閉院に至るというのは何とか避けなければなりませんが、何が起こるかわかりません。閉院には多額の費用もかかりますし、患者さんにご迷惑をおかけすることになります。どうしたら安定して医療を提供していけるかを考える一方で、最悪の場合でも患者さんへの影響を最小化するにはどうしておくべきか、一度考えるのも良いでしょう。

 

 

杉山 宗志

ときわ会グループ

 

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ときわ会グループ 

静岡県伊豆出身。静岡県立韮山高等学校、東京大学工学部建築学科卒業、同大学院工学系研究科建築学専攻修士課程終了。東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム修了。東京大学在学中は運動会剣道部に所属。現在は福島県いわき市を中心に医療、介護、教育を軸に事業展開する『ときわ会』にて勤務。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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