新宿・コロナ検査記録「無症状でも陽性反応」「陰性でも不安」

新宿駅に直結する新宿ナビタスクリニックでは医療者や介護福祉関係の人々を対象に、4月より新型コロナウイルスのIgG抗体検査を行っていた。本記事は、新宿ナビタスクリニックで院長を務める濱木珠恵氏による新型コロナウイルス抗体検査の体験記録である。 ※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

医療者を対象に新型コロナのlgG抗体検査を行った

筆者は、新宿駅に直結する内科クリニックの院長をしている。 1月から広がった日本国内での新型コロナウイルスの流行は、3月中旬から4月にかけてピークに達したのち、地域差はあるものの徐々に新規の患者数は減ってきた。

 

このコロナ禍において、総合病院の医療者の友人たちから「新型コロナ感染者の診療を続ける中で、自覚症状がないけど自分も実は感染しているかもしれない。不安を感じる」といった声が聞かれた。

 

そこで、筆者のクリニックでは、医療者や介護福祉関係の方々を中心に、4月から新型コロナのIgG抗体検査を行うことにした。当初は、対象を医療者に限定していたものの、当院で抗体検査ができるという話を聞いた方々から数多くの問い合わせをいただくようになり、4月27日からは、対象を一般の人にも広げている。

新型コロナの「抗体検査」に意味はあるのか?

抗体検査について、疫学的な調査でしか意味がないと言う人たちもいる。新型コロナは、感染者の8割が軽症もしくは無症状と言われており、感染が疑わしい人にPCR検査を行うだけでは、無症状者を含めた感染の全体像を掴むことができない。

 

抗体検査にはどんな意味があるのか?
抗体検査にはどんな意味があるのか?

 

それに対して、一定期間を遡って過去の感染の有無を確認することができるIgG抗体検査は、今年1月からの間と仮定して、市民全体のうちどれくらいの割合で感染が広がっていたかを調べるのには適した検査だ。

 

神戸市立医療センター中央市民病院や、大阪市立大学、東京大学なども、自施設の受診者の大規模な検査を行い、それぞれの抗体陽性率を出している。

 

医療機関によって、検査対象となった患者集団の背景は異なるため陽性率も差が出るが、それも含めて目安として分析していけばいい。IgG抗体検査は、疫学的な調査に有効な検査方法のひとつであり、その使い方には筆者も賛同する。

 

しかし、抗体検査が、検査を受けた個々人にとって無意味なものかといえば、筆者はそうは思わない。なぜなら、検査受付開始直後に来ていた方々の話を聞くと、この検査が必要だったことはとてもよく理解できるからだ。 

検査を受けられず「ずっとモヤモヤしている人たち」へ

ある50代の方は、3月に発熱があった。その頃に一緒に食事をした友人が、会食の数日後に新型コロナと診断されたと、後になってから聞いたらしい。「もしかすると自分の発熱も新型コロナだったのではないか」と確認したくて検査に来ていた。友人と会ったときはお互い症状がなく、濃厚接触者としては扱われなかったそうだ。また発熱も37度前半であり、PCR検査にはいたらなかったと言う。IgG抗体検査は陽性反応が出た。「今は特に問題もなく生活しているが、ずっとモヤモヤしていた」そうだ。

 

また別の20代の方は、同じ店で働く仲間数人が、3月下旬あたりから次々と発熱し、 中には匂いが分かりにくくなっていた方もいたと言う。「さすがにおかしいと思って窓口に相談してみたが、混んでいて検査ができる状況ではないようだった。新型コロナは疑わしいけど、若いので咳とか息苦しいとかの症状がひどくなければ自宅待機で様子をみてって言われた。TVとかで検査できないのは知っていたから仕方ないと思ったけど、やっぱり本当はどうなのか確認したくて」。 結果は、陽性であり、「そうだと思っていたから、検査で確認できてよかった」と言っていた。

 

ここでPCR検査数の多寡について議論するつもりはない。ただ、発熱があったがPCR検査を受けられなかったので気になっていたと言う人は多かった。検査を受けたくてもなかなか受けられない時期や地域があったのは事実で、確定も除外もできずモヤモヤしている人たちは一定数いるはずだ。

「偽陰性なのでは…」不安のループから抜け出せない

ある高齢者は、4月半ばから1ヵ月近く体調不良が続くことを心配し、内科を受診した。動くと胸が苦しいと言うが、心電図に異常はない。呼吸状態も安定している。よく聞いてみると「新型コロナにかかっているのではないか。4月には心配で大学病院を受診しCT検査もした。少し陰影があるけどたぶん大丈夫だと言われて、でも結果用紙にはCOVIDは否定できないとも書いてある。心配だ、死ぬかもと思って不安になる」と言う。

 

もしも4月から感染が続いていればもっと悪化しているはずなので、体調不良は別の症状だろうと伝えたが、「PCR検査もしてもらって陰性だったけど、そのときに偽陰性のこともあると聞かされて、実は感染していたのかもとずっと心配している」と不安のループから抜け出せない。結局、抗体検査でも陰性だった。

 

筆者も通常なら、病気を疑っていない症例で、不安を解消したい目的だけの検査には意味がないと思う。だが新型コロナはまだ未知な部分も多い。このような不安を持つ人にとって検査する意義はあるのだ。もちろん、抗体検査後には、肝心の体調不良についての診療を続けている。

「もしかして抗体をもっているのでは?」という期待も

こんな例もある。年末にでかけた中国への家族旅行で、家族共々、高熱が出たと言う。 「インフルエンザ検査は陰性だった。もしかして、あれが新型コロナだったら、今後、ちょっと安心できるのではないかと思って」とのことだったが、結果は家族全員が陰性であった。未感染であり、また仮に既感染であったとしても2回目の感染がないとは証明されていないので、引き続き感染に気をつけるようにお伝えした。抗体がないことは残念そうではあったが、それでも「これから気持ちを仕切り直しできますね」と言ってくださった。

 

総合病院で働く医師からは「症状は出ていないが、あれほど新型コロナの患者さんと接していて、感染していたかどうか気になる。中和抗体かどうかまだ確認されてないけど、抗体があるかどうかは知りたい。感染しても重症にはなりにくいかなと思って安心できるし」と言われた。陰性で、淡い期待は脆くも打ち砕かれていたけれど。

まったくの無症状なのに「陽性反応」だった30代

一方で、まったくの無症状だが「職業柄、大勢と接点があるので」と検査を受けた方で陽性になることもある。たとえば、大勢の子どもたちと接する職業で、自覚症状もなく、また周囲にも新型コロナと診断された方はいなかったという30代の方がIgG抗体陽性だった。分からないものだ。見るからに健康そうな方であり、おそらく症状の出ない不顕性感染だったのだろう。本人も驚いていたが、筆者も検査結果を二度見した。

 

ご本人には「抗体があるので以前に感染していた可能性がある。症状がないから、時期や誰からというのは分からない。一般的に、麻疹などはIgG抗体があればその後の感染を防げるが、新型コロナに関して2回目の感染を防御できえる“中和抗体”というものなのかどうかはまだ不明だ。仮に自分の感染が防御できても、手などを介して他の人へウイルスを広げてしまう可能性はある。なので、抗体があったことに油断せず、今後も手洗いなど感染予防は心がけてほしい」と説明した。

 

新型コロナに限らず、体調不良について病名がついたり病態を説明されたりすれば、すっと腑に落ちて気が楽になる人は多いと思う。安心のために全員に検査をせよとは言わないが、検査を希望する人が多いのは、未知のことが多い感染症を「自分ごと」として捉えている現れではないだろうか。今後の感染予防の注意喚起と併せて抗体検査をしていくことに、それなりの意義はあると考えている。

 

 

濱木 珠恵

医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長

 

 

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医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長

北海道大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿院長。国立国際医療センターにて研修後、虎の門病院、国立がんセンター中央病院にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。都立府中病院、都立墨東病院にて血液疾患の治療に従事したあと、2012年9月より東中野院長、2016年4月より現職。専門は内科、血液内科、トラベルクリニック。自身も貧血であった経験を活かし、クリニックでは貧血外来や女性内科などで女性の健康をサポートしている。

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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