税務調査の流れは、午前中にヒアリング、午後にヒアリングを基にした現物確認となることがほとんどです。午後は午前のヒアリングをもとに預金通帳や印鑑等を調べますが、一般人が想像する以上に申告漏れの指摘ポイントが多いため、注意が必要です。本記事は、『[改訂二版]相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

調査官は重加算税をかけたがる
税務調査を録音することはできるか?
5/19(日)>>>WEBセミナー

「手帳はありますか?」との質問には慎重な回答を

税務調査当日の午後は、午前中の質疑応答を基に、預金通帳などの現物を確認しながらの調査が行われます。前回の記事『調査官の思うツボ…税務調査「トイレを貸してください」の真意』でも触れましたが、このタイミングで「家の中をちょっと見せてもらえますか」ということもあります。調査官が見るのは、家の中に申告すべき財産や、金融機関に結び付くようなものがあるかどうかということです。では、現物の確認がどのように行われるか、ご説明しましょう。

 

相続人が気づかない「申告漏れ」指摘の隙が詰まっている
「現物」には、相続人が気づかない「申告漏れ」指摘の隙が詰まっている

 

香典帳・芳名帳で金融機関とのつながりをチェックする

 

まず最初に閲覧を求められるのが、香典帳や芳名帳など葬儀の状況を推測できるものです。調査官はそこから室内のチェックと同様、銀行や証券会社、保険会社の人が来ていないかどうかを調べます。相続税がかかるような多額の取引がある顧客であった人の葬儀だと、銀行の担当者や関係者が葬儀に参列することがよくあります。その銀行との取引が申告書に記載されている場合は問題ありません。

 

厄介なのは、金融機関の人は来場しているのに、そことの取引が申告書に載っていない場合です。「申告書を見た限りでは、生前のお取引はなかったようですが、どういうお付き合いですか?」「本当に取引がなかったんですか?」と追及されます。

 

とはいえ、息子の友人や仕事上の取引先の人というケースもよくあることなので、ありのままに答えてかまいません。

 

手帳・アドレス帳・日記帳など

 

亡くなった人の日々の生活や、交友関係を見る上で調査官が参考にするのが、この3つです。いずれもお金につながるものを、これから探ろうとしているのです。

 

「手帳はありますか?」

「アドレス帳は持ち歩いていましたか?」

「日記はつけていましたか?」

 

これらの質問に「はい」と答えると「では見せてください」という話になります。ですから答え方には十分注意してください。ない場合は、「ありません」と答えていただければ大丈夫です。「棺に入れてあげました」という方も過去にはいました。

 

仮にあったとしても、追及するネタを相手に提供することになってしまうので、このときだけはしまっておいたほうが無難かもしれません。

過去の伝票や手書きのメモは調査官の「宝の山」

通帳・証券・印鑑の確認

 

調査官は必ず「通帳や印鑑はどこに保管していますか?」と聞いてきます。多くの場合、保管場所は書斎や寝室の机の引き出し、金庫の中などが多いですが、保管場所が分かると「それではそこを見せてもらえますか」といって現場の案内を求めてきます。

 

調査官に与えられているのは、質問と検査をする権利だけで、他人のものを勝手に触ることは許されていません。そこで、相続人に「中を開けて見せてください」と指示して中身を取り出してもらい、一つひとつ手に取って確認していきます。

 

以前、この現物調査の段階でヒヤリとしたことがありました。事前の打ち合わせのとき、お客さまに「調査官が見ることがあるので、引き出しの中を整理しておいてください。場合によっては引き出しごと運び出して、じっくりと中身を確認されますからね」とお願いしておいたのですが、実際の税務調査のとき、思いがけない行動に出たのです。

 

「通帳や印鑑類の保管場所を見せてもらえますか」という調査官に、普通なら「そこまで調べるんですか」というためらいを見せるところですが、このときのお客さまは待ってましたとばかりに「どうぞどうぞ。引き出しごと持って行っていいわよ」と何の不安もなく胸を張って快く応じるではありませんか。今となっては笑い話ですが、私は内心「ああ、準備しているのが見え見えになってしまった」と肝を冷やしました。

 

さて、調査官は引き出しや金庫そのものだけでなく、その周辺にあるものにも注目しています。

 

というのも、通帳や印鑑の保管場所の周辺には、過去の伝票や手書きのメモなど「原始記録」と呼ばれる、調査官にとっては一種の「お宝」が置かれていることが多いからです。

 

銀行や会計事務所が作った「財産一覧表」や「相続税の節税提案書」などが、封筒やファイルに入ったまま保管されていることがあったり、いつ誰の名義でどんな保険に入ったか分かるような書類とか、郵貯の定額貯金の預入証など、調査官が喜びそうなものが出てくることもあります。

 

このようなお金に関する現物や故人のメモ帳などは調査官にとってはまさに「宝の山」なのです。

通帳や印鑑の保管場所近辺も「事前整理」が必要

また、彼らは、申告漏れに結び付くものだけでなく、相続がすんだあとのお金の動きにも目を光らせています。

 

例えば相続財産が分割協議に沿った形になっているかどうか、通帳などの保管場所をチェックすることで可能になることがあるのです。分割協議では、亡くなった人の財産をそれぞれ誰がもらうかが決められます。ところが申告では母親がもらうはずの預貯金が長男の名義に変わっているとか、長女の口座に振り込まれているといったことがあるのです。

 

母親は配偶者の税額軽減の特例を使うことができるので、配偶者自身の法定相続分と1億6,000万円とのいずれか多い金額までは相続税がかかりません。それを利用して申告したはずなのに、実際は長男の名義になっていたとなるとこれは問題です。母親から長男に贈与されたということになるため、贈与税の申告が必要になるからです。

 

こうしたことを、通帳や印鑑の保管場所の近くにあるものをチェックすることによって、見つけることができる場合があるというわけです。

 

印鑑については「誰の印鑑なのか」「何に使っていたものか」を確認します。さらに印鑑の印影を取りますが、最初は必ず「カラ押し」します。もし、亡くなった人の印鑑であれば、最後に使ったのは亡くなる前のはずですから、すでに朱肉が乾いて印影は取れないはずです。

 

仮にベタッとついたとしたら「最近、使いましたね。いつ、どのような時に使いましたか」ということになります。ですから私は、お客さまには「念のため印鑑は拭いておきましょう」とお話ししています。

 

また、印鑑の数が多すぎると厄介なことになります。ごくまれなことですが、以前に旅先で印鑑を買うのを楽しみにしていたという人がいて、缶の中にごっそりコレクションを持っていました。中には他人の名前のものまで入っていました。

 

今は口座開設には本人確認をすることになっているので、他人名義の口座を作ることはできませんが、昔は架空名義の口座を作ることが可能でした。

 

自分以外の名前の印鑑がたくさんあると、「もしかして架空名義の財産があるのでは?」とあらぬ疑いを掛けられることになりかねません。

 

誤解を与えるような余計な印鑑がある場合には整理しておいたほうが無難です。印鑑については、亡くなった人のものだけでなく、家族が使っているものもひと通り確認して、印影を取っていくこともありますが、家族全員の印鑑を準備しておく必要はありません。普段使っているものを見せればよいでしょう。

 

退職金・保険金の振り込まれた通帳

 

一般的に、人の一生で大きなお金が振り込まれるのは、土地などの不動産を譲渡した場合ですが、その他に考えられるのは、退職金が出たときと、生命保険の保険金が下りたときの二つでしょう。

 

ですから、この二つについては、調査官は必ず質問をしてきます。「亡くなった人は退職金をもらいましたか?」「亡くなった人は生命保険に加入していましたか?」、あれば「ではそのお金が振り込まれた通帳を見せてください」という流れになります。

 

退職金は本人の通帳を確認して、そのお金がどこに行ったか説明を求めます。生命保険金は受取人の通帳を見て、そのお金が現在どこにあるか、受取人以外のところに流れていないかどうかを確認します。

 

 

服部 誠
税理士法人レガート 代表社員/税理士

 

\4/17開催・WEBセミナー/
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服部 誠

幻冬舎メディアコンサルティング

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